シリア帰郷に障害多く=「いつか必ず」再建意欲も―移民ら、排外主義に懸念・ドイツ 2025年05月04日 14時17分

ラミア・ジャブリさん(右)と夫=3月14日、ドイツ北西部オルデンブルク
ラミア・ジャブリさん(右)と夫=3月14日、ドイツ北西部オルデンブルク

 【ベルリン時事】シリアのアサド政権崩壊に伴い、かつて内戦を逃れて欧州に渡ってきた移民らに対する帰国圧力が高まっている。2015年に寛容な受け入れを打ち出したドイツでは100万人以上のシリア系移民が暮らすが、それから10年がたち排外主義が台頭。ただ、シリアは依然情勢が不安定で、移民らは「帰郷の障害は多い」と難しい立場に立たされている。
 ◇母国語使えず
 「ドイツには温かく迎え入れてもらったが、常にシリアとのつながりを感じてきた」と語るのは首都ダマスカス出身で現在は独北西部オルデンブルク在住のラミア・ジャブリさん(44)。爆撃が相次ぐ中、15年にドイツへ逃れた。エーゲ海をゴムボートで渡り、途方もない距離を歩いた。ドイツ語を習得し、現在はインターネット通販大手の梱包(こんぽう)員を務めている。
 帰郷への思いは強いが「現状では不可能」と考えている。荒廃した地での生活再建は容易でなく、特に娘(15)はドイツ生活の方が長いため、母国語アラビア語の読み書きが身に付いていない。「(今のシリアは)教育環境が整っておらず、娘の将来が危うくなる」と苦悩を語った。
 ◇ついえたプロの道再び
 帰郷を探る動きもある。ベルリン近郊で体育講師を務めるバーセル・ハバさん(35)は、シリア北西部アレッポ出身。プロサッカー選手だった父の背中を追って幼少期からサッカーに励み、自らもプロ入り。しかし、直後に内戦が始まりキャリアを絶たれた。政府軍に徴兵されたが、市民への攻撃に抵抗し、祖国を離れた。
 ドイツでは語学学習や職業訓練の傍らサッカーを続け、現在も6部リーグの地元チームに所属。アスリートとしてのピークは過ぎ、「年齢的にプロでは通用しない」と考えていた矢先、シリアの1部リーグからオファーを受けた。シリア再建に向け、国外に散った選手を呼び戻しているという。
 「シリアで選手としてのキャリアを終えるか、ドイツにとどまるか」。2児の父で、家計を支える身。今夏に一時帰国し、状況を見極めるつもりだ。「国に必要とされているとはっきり感じる。いつか必ず戻る」と祖国再建への意欲を見せた。
 ◇「外国人うせろ!」
 ドイツでは経済が傾く中、移民への手厚い待遇に国民から不満が噴出。排外的な極右政党「ドイツのための選択肢(AfD)」に支持が集まるなど右傾化が進む。今月6日発足のメルツ新政権は、難民政策の厳格化にかじを切る方針だ。
 2月の連邦議会選で初当選したシリア出身のアラー・アルハムイ議員(41)は、エネルギー政策に精通し、ドイツに順応した移民の象徴的存在だが、近年差別感情が高まっていると感じている。選挙運動中に「外国人が何をしている。うせろ!」と罵声を浴びたこともあるという。「半人前のドイツ人とみられ、より多くのことを求められている」と思うが、歯を食いしばっている。
 シリア出身の両親を持ち、ドイツで難民施設を運営しているアバ・エルシャイヒさん(28)は「難民制度が限界に来ている」と認め、不法滞在者の取り締まりや水際対策の強化が必要だと主張。イスラム圏出身者による事件を例に挙げ、「移民は機会をもたらすが、いさかいも起こる」と語り、現実を直視する必要があると訴えた。 

その他の写真

バーセル・ハバさん=4月4日、ベルリン
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アラー・アルハムイ議員=3月15日、ドイツ北西部オルデンブルク
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アバ・エルシャイヒさん=3月14日、ドイツ北西部オルデンブルク近郊
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