「現実主義的」天皇像=天皇ニクソン会談・識者談話 2025年02月10日 14時23分

河西秀哉・名古屋大大学院准教授(日本近現代史)の話 外交文書には脚色がなく、開示された文書は昭和天皇の生の声を伝えている。昭和天皇像を考える上で大きな意義を持つ面白い史料だ。
昭和天皇は日米間の友好関係の維持を強調しており、日本を守るために日米安全保障体制が一番重要だという意識だったのだろう。中国共産党を脅威に感じていたが、ニクソン米大統領は「平和を守るために訪中が必要だ」と告げた。昭和天皇は、訪中で日米関係が変わることを恐れていたのではないか。非常にリアリスティック(現実主義的)だったことが分かる。
昭和天皇が「実際の諸問題」と述べたのは、共産主義の中国とは国家体制に大きな違いがあり、どのみち分かり合えないという趣旨だろう。台湾問題もあったはずだ。当時大きな政治問題だった公害について、(海洋汚染を阻止するよう)わざわざ米国にくぎを刺している部分も興味深い。
日本側から会談の外交記録は出ていない。「昭和天皇実録」に記述があるが、無味乾燥で、天皇が政治的問題で発言している部分は避ける傾向にある。「国民統合の象徴」になったことで、生々しい発言はしていないというのが建前だ。実際の場ではこういう発言がなされていたわけで、昭和天皇はやはり「象徴」には閉じこもっていなかったのだと感じた。