「国民の代弁者」の役割=天皇ニクソン会談・識者談話 2025年02月10日 14時22分

増田弘・立正大名誉教授(日本外交史)の話 非常に貴重な史料だ。ニクソン米大統領訪中に関する昭和天皇の発言は、国民統合の象徴で政治に介入しないという建前を超え、自身の見解を述べたようにみえる。ただ、その見解は日本国民の大多数や政府当局の考えと矛盾していなかった。昭和天皇は国民・政府の代弁者の役割を担い、日米関係漂流にピリオドを打つ伏線になったと感じる。
ニクソン氏は会談で、自身の訪中の正当性を訴えた。つまり、訪中によって同盟国日本に迷惑はかけないと伝えた。
これに対し昭和天皇は、それほど簡単には米中関係改善は進まないだろうと言った。さらにニクソン氏が米中、日中、日米の三つの関係を並べて話したのに対し、昭和天皇はえん曲的に日米関係が一番重要だと強調したと解釈できる。
ニクソン氏は、「ニクソン・ショック」による日本への打撃を何とか和らげたいと考えていたのだろう。そういう政治的意図が見え透いている。天皇と話ができるようになったという自尊心を満たす意味もあっただろう。
「(訪中についてニクソン氏に)cautioned(警告した)」という表現を見た時、かなり強い言葉だと感じた。昭和天皇は政治不介入を少し踏み越えたことになるのではないか。日本語でどう語ったか知りたいところだ。