イランとイスラエル、報復の応酬へ=ヒズボラ窮地で自制転換―中東緊張、戦火拡大に現実味 2024年10月02日 15時42分
【エルサレム時事】イランが1日にイスラエルへ約180発の弾道ミサイルを発射したことで、懸念されていた戦火拡大が現実味を増している。イランを後ろ盾とするイスラム教シーア派組織ヒズボラの最高指導者ナスララ師がイスラエル軍に殺害され、レバノンで地上侵攻も始まったことで、イランは対イスラエル直接攻撃を自制する従来方針を転換。イスラエルは報復を明言しており、攻撃の応酬が中東地域の緊張と不安定化を一段と助長する恐れがある。
◇全面戦争望まず
「90%が標的に命中した」。イラン精鋭軍事組織「革命防衛隊」は声明で、ミサイル攻撃の「戦果」を主張。「シオニスト(イスラエル)が軍事的に反撃すれば、さらに破滅的な打撃を受けることになる」と警告した。
イラン最高指導者ハメネイ師は先月28日、ナスララ師殺害後の声明で「地域の運命を決めるのは抵抗勢力だ」と主張した。ただ、イラン自ら報復攻撃に踏み切るかは明言せず、その真意が臆測を呼んでいた。
ロイター通信によると、ハメネイ師はナスララ師死亡後に安全な場所へ移動し、ミサイル発射後もとどまっている。レバノンで起きた通信機器の一斉爆発を受け、革命防衛隊も通信機器使用を禁じたとも報じられ、イスラエルによる暗殺や破壊工作を恐れているもようだ。
イランは、軍事力で上回るイスラエルや米国との全面戦争は避けたいのが本音だ。しかし、イランで起きたイスラム組織ハマス最高指導者の暗殺から2カ月超も報復を見送る間に、「イランに最も従順」(専門家)とされるヒズボラがイスラエルの攻勢で窮地に陥ったことで、強硬姿勢に転じた。
イラン情勢に詳しいシンクタンク「国際危機グループ」のアリ・バエズ氏は「イランの地域での抑止力は地に落ち、ヒズボラが打倒される前に対抗する必要があった」と指摘する。イスラエルに厳しく対処しなければ、親イラン組織への求心力や威信が低下すると、イラン指導部が危惧した可能性もある。
◇「誰であれ攻撃」
今後はイスラエルの出方が焦点だ。ネタニヤフ首相は1日、「われわれを攻撃すれば、われわれは誰であれ攻撃する。イランでも同じだ」とけん制。反撃対象や規模次第では、事実上の核保有国イスラエルと、核開発を進めるイランの本格衝突を招きかねない。
4月のイスラエルによる在シリア・イラン大使館空爆では、イランが報復として初めてイスラエルを直接攻撃。イスラエルがイラン領内へ反撃する事態に発展したが、双方が全面衝突を回避するため抑制的対応にとどめたことで、危機は沈静化した。
だが今回、イスラエルがイラン核施設など重要施設を狙う攻撃に強度を上げれば、歯止めが利かない報復の連鎖も懸念される。米紙ニューヨーク・タイムズは専門家の話として、ヒズボラの弱体化で脅威が減ったことで「イスラエルが強く対応する自由度が、4月より増している」と伝えている。