生活苦や「飽き」で与党苦戦=優遇撤廃疑念も影響か―印総選挙 2024年06月18日 16時34分
【ニューデリー時事】投票が1カ月半にわたったインド総選挙で、モディ首相率いる与党インド人民党(BJP)は単独過半数を割り込む苦戦を強いられた。開票から2週間が過ぎた各種分析では、生活への不満や長期政権への飽きに加え、同国特有の身分制度カースト下位の人々の優遇措置が撤廃されるのではないかとの疑念が膨らんだことも、与党後退の要因に挙げられている。
◇大票田で大敗
BJPは全543議席中、目標を130議席下回る240議席に終わり、友党との連立で何とか多数派を維持。3期目のモディ政権が船出した。野党・国民会議派の牙城だったケララ州で史上初の議席を得るなど、南部で一定の成果を挙げたものの、最多の2億人超が暮らす北部ウッタルプラデシュ州では議席をほぼ半減させた。
地元調査機関CSDSによる投票後の調査では、モディ政権への不満として最多だったのは「物価高」の24%。「失業増加」が23%で続き、経済成長の恩恵にあずかれない人々の間で批判が高まっていることを浮き彫りにした。
◇BJP勝利で改憲?
地元報道や識者によれば、差別是正を目的に公務員採用や大学入試に設けられている低カースト向け「留保枠」について、BJPが大勝すれば憲法を改正し撤廃するのではないかとの警戒感が広がったことも、有権者の投票行動に影響した。BJPはヒンズー教徒やカースト上位層を主な支持基盤としてきた。
選挙戦序盤にウッタルプラデシュ州のBJPの候補が憲法改正を示唆する発言をしたことで、そうした疑念が拡大。党幹部が打ち消しに走ったが、完全には払拭できなかった。対する野党連合は「憲法を守る」と訴えた。
同州のヒンズー教聖地バラナシに住む低カースト出身の男性(30)は、今回の選挙で野党にくら替えした。ロイター通信に対し、BJPが「留保枠を廃止する」と信じていたと語る。
◇民主主義は機能
それでも今回の結果は、世界最大の人口を擁するインドで民主主義の根幹である選挙が機能したことを示したとの見方もできる。投票率は65.8%で、前回2019年からやや低下したものの、高水準を維持した。
ウッタルプラデシュ州を対象に首相になってほしい人物を尋ねたCSDSの調査では、国民会議派のラフル・ガンジー元総裁が36%でトップとなり、モディ氏を4ポイント上回った。外交筋は「長期政権への飽きがきたのか、(首相の人気が与党支持を支える)『モディ・ファクター』がなくなり、抑えられていた不満が表出した」と分析する。
また、モディ政権に強権姿勢が目立っていたことで、開票前は電子投票機の記録が改ざんされるとの疑念が野党を中心に浮上したが、与野党とも結果をおおむね受け入れた。同筋は「投票所で誰にも見られず投票できるという点で、インドの民主主義は生きている」と、やや安堵(あんど)した様子で話した。