出生率、止まらぬ低下=「消滅の危機」も解決策見えず―韓国 2024年03月02日 17時23分

韓国の尹錫悦大統領=1日、ソウル(EPA時事)
韓国の尹錫悦大統領=1日、ソウル(EPA時事)

 【ソウル時事】韓国の2023年の合計特殊出生率(1人の女性が生涯に産む子どもの推定人数)が、暫定値で0.72と発表された。経済協力開発機構(OECD)加盟国の中で、出生率が1を下回るのは韓国のみで、22年に1.26だった日本と比べても著しく低い。政府は巨額を投じてきたが、低下の一途をたどっている。
 「14世紀にペストが欧州にもたらした人口減少を超えるものだ」。米紙ニューヨーク・タイムズに昨年12月、こんなコラムが掲載された。「韓国は消滅するのか」と題され、このまま少子化が進めば「高齢者が見捨てられるのは避けられず、未来の見通せない若者が移民となるだろう」と指摘。韓国メディアはそろってこれを報じた。
 実際に少子化の影響はさまざまなところで表面化している。教育省は2月、今年の新入生がいない小学校が全国で157校に上ると発表した。国防白書によれば、徴兵制をとる韓国軍の兵力は20年末の約55万5000人から22年末には約50万人にまで減少。国防面への影響も懸念されている。
 少子化がここまで深刻化する背景には、住宅価格の高騰や、女性の社会進出に伴う晩婚、非婚化などさまざまな要因があるとされる。韓国銀行(中央銀行)は昨年11月に発表した報告書で、韓国が過度な競争社会であることや、住宅や雇用、子どもの養育面での不安が影響を与えていると指摘した。
 子どもの教育熱が高い韓国では、塾通いなどにかかる教育費の負担も大きい。ソウルに住む30代の就職活動中の未婚男性は「幼少期からの英語教育や塾通い、子どものときからの留学など、韓国では子どもに対する期待が高すぎる。他と比べる文化があるからだと思う」と話した。
 韓国政府は5年ごとに「低出産高齢社会基本計画」を定め、06年以降、少子化対策に280兆ウォン(約31兆6000億円)余りを投入。歴代政権も出産支援や保育施設の設置などの対策を講じてきた。尹錫悦大統領は2月、「これまでのような対応だけで解決できないことを経験した。政策を再構築しなければならない」と危機感をあらわにした。
 漢陽大国際大学院の田英洙教授は、これまでの政府の対応は「感覚的で惰性的だ」と指摘。「現在の政策は出産の意図がある人を対象としているが、晩婚化や非婚化が広がる状況では若者が恩恵を受けられずミスマッチが生じている」。若者の人生設計の変化を見据えた支援策が必要だと訴えた。 

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