廃炉に生かせ「究極の半導体」=福島・双葉に初の生産拠点―実用化目指す新興企業・東日本大震災14年 2025年03月03日 07時06分

取材に応じる星川尚久社長=2月12日、札幌市北区
取材に応じる星川尚久社長=2月12日、札幌市北区

 東京電力福島第1原発事故の廃炉作業は、原子炉に残る推定約880トンの溶け落ちた核燃料(デブリ)取り出しに向け、正念場を迎えつつある。人の入れない高放射線下では遠隔操作ロボットなどによる作業が必須となる中、極めて高い放射線にも耐える「ダイヤモンド半導体」(ダイヤ半導体)が注目されている。
 廃炉作業を、ダイヤ半導体の世界初の実用化に向けた挑戦の場に選んだのは札幌市の新興企業「大熊ダイヤモンドデバイス」。今年3月、同原発のある福島県大熊町で生産拠点の建設に着手、2026年度中の実用化を目指す。同社の星川尚久社長は「ダイヤ半導体の廃炉への活用は、自分たちの使命。覚悟を持って進める」と話す。
 人工ダイヤを素材とするダイヤ半導体は、高い電圧や温度、放射線にも耐える「究極の半導体」。電気自動車などのほか、宇宙など過酷な環境での展開も期待される。
 事故当時、北海道大工学部の学生で、原子力技術について学ぶこともあったという星川さんは「原発は花形の研究分野だったが、事故を機に評価が180度変わった」と振り返る。大学院に在学しながら、起業家の道を進む中でも、「事故を悲しい出来事のまま終わらせていいのか」との思いは消えなかった。そんな時、母校でダイヤ半導体を廃炉に生かす研究が進んでいることを知り、「廃炉を進める技術で、半導体産業のゲームチェンジャーにもなり得る。実用化は社会的に意義のある事業だ」と直感した。
 16年、研究の第一人者である北大大学院の金子純一准教授と実用化の取り組みを開始。21年には電子部品の試作に成功し、翌年、大熊ダイヤモンドデバイスを創業した。社名は研究の傍ら足を運んで交流を深め、ともに廃炉と復興を成し遂げる決意をした大熊町にちなんだ。
 デブリの取り出しは、遠隔機器を長時間、高放射線下にさらして行う「廃炉の最難関」だ。昨年11月、東電はデブリの試験的取り出しに成功したが、その過程では機器の不具合が起き、作業が一時中断した。最大毎時70シーベルトに及ぶ高線量が原因とみられるが、星川さんは「従来品のおよそ1万倍の放射線耐性を持つダイヤ半導体は、原子炉内の計測機器など、安全に廃炉を進める機器の開発に不可欠だ」と確信する。
 ダイヤ半導体の可能性は廃炉にとどまらない。星川さんは、人類初の月着陸への挑戦が身近な生活に根付く技術革新にも及んだ米アポロ計画になぞらえ、「廃炉を乗り越えて発展したダイヤモンド半導体を他の分野に生かし、豊かな社会をつくりたい」と意気込みを語った。 

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