インフレ対策と成長率鈍化へのリスクに難しい舵取り=FOMC議事録 2022年08月18日 10時46分

[ゴールデンチャート社] 2022年8月18日

 8月17日、米連邦準備理事会(FRB)は、7月26日、27日の連邦公開市場委員会(FOMC)の議事録を公開しました。

 今回の会合ではフェデラルファンド金利の75bp引き上げる決定をしました。6月の会合と同率の利上げ幅となりました。今回の議事録では、インフレが高止まりしピークが見えない現状を憂慮し、unacceptably high(受け入れがたいほど高い)や uncomfortably high (不快なほど高い)といったこれまでの議事録にはない表現が目立ち、FOMCがインフレ対応に苦慮していることを垣間見ることができます。今回のFOMCの直前に発表されたCPIは総合指数で前年同月比9.1%増でしたが、この数値がFOMC参加メンバーの政策判断に少なからず影響を与えたことが示唆されています

FOMC議事録要旨

■米国経済の現状と見通しに関する議論

  • 最近の消費と生産に関する指標が軟化していることが指摘された。しかし、ここ数カ月は雇用が堅調に推移し、失業率は低水準にとどまっている。インフレ率は、パンデミックに関連した需給の不均衡、食料とエネルギー価格の上昇、そしてより広範な物価上昇圧力を反映して、高止まりしている。ロシアの対ウクライナ戦争が甚大な人的・経済的困難を引き起こしていることを認識し、戦争とそれに関連する事象がインフレに更なる上昇圧力を与え、世界的な経済活動の重荷になっていると判断している。
  • 消費者支出、住宅活動、企業投資、製造業生産が、堅調だった2021年の成長率から減速している。消費と生産の経済指標から、今年の第2四半期は経済活動が広範囲にわたって軟化したことを示唆している。特に住宅部門における減速の一部は、継続的な金融引締め政策に対する総需要への新たな反応を反映したものである、との指摘があった。パンデミック対応の財政政策による大規模な個人消費の下支えが解消されたこと、インフレによる実質可処分所得の減少、パンデミック初期に見られた一部の製品需要が低下したことなども、家計支出の伸びを鈍らせる要因となった。
  • 米国の実質GDPは今年後半に拡大すると予想したが、金融引き締めに対する総需要の反応が今後より強く、より広範になるため経済活動の伸びはトレンドを下回るペースになると予想する参加メンバーが多かった。
  • 家計部門のバランスシートは強固で、失業率も低いが、消費者心理は悪化しており、家計は、経済の先行き不安や物価上昇、特に食料、住宅、交通などの必需品・サービスの価格上昇による購買力の低下に照らして、支出決定に慎重になっているとの報告があった。また、住宅ローン金利の上昇や住宅価格の上昇が住宅取得に与える影響を反映し、住宅の販売活動が顕著に弱くなっていることも確認された。参加メンバーは、このような住宅活動の減速は今後も続くと予想し、借入コストの上昇が耐久消費財の購入など金利に敏感な他の家計支出の減速につながることも予想される。
  • 製造業の受注と生産が一部の地区で減少していることが分かった。不確実性の高まり、インフレ懸念、金融引き締め、個人消費の減少により、企業は経済見通しを下方修正している。多くの地域でサプライチェーンの混乱が続いており、それが今後も続くと予想される一方、一部の地域では供給状況に改善の兆しが見られるとの回答も得ている。
  • インフレ率は依然として受け入れがたいほど高く、当委員会の長期目標である2%を大幅に上回っている。6月のCPIが高水準であったことから、参加メンバーからはは6月のPCEインフレ率がさらに上昇する可能性が高いとの指摘があった。最近のガソリン価格の下落は短期的には総合インフレ指数の低下をもたらすだろうが、原油やその他の商品価格の下落はすぐに反発する可能性もあるため、インフレ率を持続的に低下させる根拠として信頼できないとの指摘があった。インフレは金融引き締めとそれに伴う経済活動の減速に遅れて反応し、しばらくの間は不快なほど高い水準で推移する可能性が高いと判断した。いくつかの製品カテゴリーでは、短期的に物価上昇率がさらに上昇する可能性が十分にあり、特に住宅賃貸料の大幅な追加的上昇があり得ると見ている。
  • 供給のボトルネックが引き続き物価上昇圧力に寄与している。しかし、一部の主要原材料調達の改善、購入価格の上昇圧力の減少、納期の短縮など、供給状況に緩やかな改善の兆しも見られる。参加メンバーは、総需要の減速がインフレ圧力を低下させる上で重要な役割を果たすと強調した。金融政策における適切な引き締めと、最終的な需給不均衡の緩和が、インフレ率を当委員会の長期的な目標と整合的な水準まで引き下げ、長期的なインフレ期待として定着することを期待している。
  • リスクに関する議論では、参加者メンバーはインフレ・リスクに高い関心を寄せており、インフレとインフレ期待の両方に関する動向を注意深く見守っていることを強調した。インフレの中期的な方向性に関する不確実性は依然として高く、インフレ・リスクは依然として上方に偏っており、数名の参加メンバーは商品市場から生じる更なる供給ショックの可能性を強調した。実質GDP成長率の見通しに対するリスクは、主に下振れであると考えている。これらの下振れリスクには、金融引き締めが経済活動に予想以上の悪影響を及ぼす可能性、パンデミックに関連したさらなる経済混乱、地政学や世界経済の動向がさらなる経済・金融上の不都合につながる可能性などが含まれる。

■金融政策の基本的スタンス

  • 労働市場が非常にタイトであり、インフレ率が委員会のインフレ目標値2%をはるかに上回っている。最近の消費と生産の指標が軟化していることと対照的に、雇用の増加は堅調であり、失業率は低水準に留まっている。こうした背景から、今回の会合では、フェデラルファンド金利の目標レンジを75bp引き上げ、5月に当委員会が公表した「連邦準備制度のバランスシート縮小計画」で説明した通り、FRBの保有証券の削減プロセスを継続することが適切であることに合意した。
  • 当委員会の目的を達成するためには、フェデラルファンド金利の目標レンジを継続的に引き上げることが適切であるとの見通しを示した。インフレ率が当委員会の目標を大幅に上回って推移していることから、参加者メンバーは、「最大雇用」と物価の安定を促進するという当委員会の立法上の使命を果たすためには、金融引締め政策のスタンスに移行することが必要であると判断した。
  • 金融政策のスタンスが更に引き締められると、経済活動やインフレに対する累積的な政策効果を評価しながら、政策金利の引き上げペースを減速させることが、ある時点で適切になる可能性が高いと判断している。一部の参加メンバーは、政策金利が十分に引き締められた水準に達した後は、インフレ率が2%への回帰への道をしっかりと確保するため、その水準をしばらく維持することが適切であろうとの見方を示した。
  • 金融政策の伝達に関するラグがあるため、実体経済への影響の大部分はまだ現れていないと判断した。また、経済成長が緩やかになればインフレ率が2%に戻るはずだが、消費者物価に対する効果はデータ上まだ明らかではない。経済環境は常に変化しており、金融政策の経済への影響には長くさまざまなタイムラグがあることから、物価安定の回復のための必要以上の引き締めはリスクがあるとの指摘があり、今後数四半期における引締引締めのペースと規模を判断するために、データに依存したアプローチの重要性を強調された。

(H・N)

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■関連情報(外部サイト)

FOMC議事録(原文、FRB)