「中立的金融政策」への移行に向けて利下げ開始=FOMC議事録 2024年10月10日 10時25分

 米連邦準備理事会(FRB)は9月17日、18日に開かれた連邦公開市場委員会(FOMC)の議事録を公開しました。今回の会合でFOMCはフェデラルファンド金利(FF金利)の目標レンジを0,5%引き下げる決定をしました。参加メンバーの間で引き下げ幅をめぐり様々な議論が展開されました。今後の金融政策見通しに関する議論では、「インフレ率が持続的に2%に向かって低下し、経済がほぼ完全雇用に近い状態になるという見通しが概ね実現した場合、より中立的な政策スタンスへと徐々に移行することが適切であろう」との見解や、金融政策の見通しに影響を与える可能性があるリスク管理上の考慮事項について議論する中で、ほとんどの参加メンバーから「インフレの上振れリスクが後退したことに同意し、大半は雇用の下振れリスクが高まった」との指摘がありました。

FOMC議事録(要旨) 

■米国経済の現状と見通しに関する議論

【インフレ】

 インフレ動向に関する議論において参加メンバーは、インフレ率が依然としてやや高い水準にあると指摘したが、ほぼすべての参加メンバーは最近の月次データが持続的なインフレ率2%への回帰と一致していると判断した。一部の参加メンバーは、総合インフレ率の低下には食料品とエネルギー価格が重要な役割を果たしたが、幅広い商品やサービス全般にわたって価格上昇率の鈍化がより明白になっていると指摘した。特に、コア財価格はここ数カ月で低下し、コア非住宅サービス価格の上昇率はさらに低下した。多くの参加メンバーは、特に最近のインフレデータは、価格決定力が限定的または低下しており、消費者が値引きを求める傾向が強まっていると指摘する企業関係者からの報告と一致していると述べた。また、多くの参加メンバーは、2024年第2四半期と第3四半期のインフレ動向から、第1四半期の予想を上回るインフレ率は、2%に進む過程における一時的な中断に過ぎなかったことが示唆されると指摘した。

 インフレ見通しに関して、ほぼすべての参加メンバーがインフレ率が2%に向けて持続的に推移しているとの確信を深めていると表明した。インフレ率に継続的な下方圧力がかかりそうなさまざまな要因について、当委員会の金融引締め状態にある金融政策スタンスが一因となって実質GDP成長率がさらに緩やかに減速すること、インフレ期待が十分に抑制されていること、価格決定力が弱まっていること、生産性が向上していること、および、世界的に商品価格が軟化していることなどが挙げられた。一部の参加メンバーは、名目賃金上昇率が引き続き鈍化していると指摘し、さらに低下する兆候も見られると述べ、サービスセクターでは賃金が事業コストに占める割合が比較的大きいため、名目賃金上昇率の鈍化は同セクターのディスインフレプロセスを特に後押しするだろうと述べた。さらに、労働市場の需給がほぼ均衡していることから、賃金上昇が近い将来に全般的なインフレ圧力となる可能性は低いと、複数の参加メンバーが指摘した。住宅サービス価格については、新規入居者が直面する家賃上昇ペースの鈍化を反映し、より急速なディスインフレ傾向がかなり早く出現する可能性があると、一部の参加メンバーが示唆した。

【労働市場】

 参加メンバーは、労働市場の状況はここ数カ月でさらに緩和しており、近年過熱していた労働市場は、パンデミック直前の状況よりもタイトではなくなっていると指摘した。その証拠として、参加メンバーは、当委員会の7月の会合以降に発表された2つの雇用報告書における給与所得者数の伸びの鈍化と失業率の上昇、採用数と求人件数の減少、退職率と就職率の低下、および、労働者の雇用が困難ではなくなったという企業関係者からの広範な報告を挙げた。一部の参加メンバーは、2023年4月以来、失業率が全体として大幅に上昇した事実を強調した。多くの参加メンバーは、移民の増加、報告された賃金データの修正、潜在的な生産性成長率の変化などを要因として挙げ、労働市場の動向の評価は困難であると指摘した。複数の参加メンバーは、集約データから得られた労働市場情勢の数値を検証するために、引き続き、企業関係者から提供された詳細なデータや情報を使用することの重要性を強調した。参加メンバーは、労働市場情勢は、当委員会の長期的な最大雇用目標と一致している、またはそれに近い状態にあることで意見が一致した。

 労働市場の見通しに関して参加メンバーは、インフレ率を2%に戻すために、さらなる冷え込みは必要ないようだと指摘した。参加メンバーは、当委員会の金融政策スタンスの適切な再調整を含む基本シナリオでは、労働市場は堅調さを維持するだろうと指摘した。参加メンバーは、労働市場の指標を注意深く監視する必要があることに同意し、一部のメンバーは、労働市場の状況が緩和していることから、緩和が継続するとより深刻な悪化へと転じるリスクが高まっていると指摘した。

【米国経済】

 参加メンバーは、経済活動が堅調なペースで拡大を続けていることを指摘し、回復力に富んでいる個人消費に注目した。一部の参加メンバーは、実質家計所得の増加が消費を後押ししていると指摘したが、一方で、クレジットカードや自動車ローンの延滞増加など、支出の鈍化や家計の逼迫を示す兆候を指摘するメンバーもいた。一部の参加メンバーは、低・中所得世帯が経験している金融面の逼迫は、今後、消費の伸びが鈍化することを意味する可能性が高いと指摘した。多くの参加メンバーは、彼らのビジネス上の取引先は経済見通しについて楽観的であるものの、雇用や投資の決定には慎重であると報告した。参加メンバーは、生産性の向上を含む好ましい総供給の動向が最近の経済活動の堅調な拡大に寄与していると指摘し、一部の参加メンバーは職場への新技術の導入がもたらす可能性について議論した。多くの参加メンバーは、今後数年間、実質GDPはほぼそのトレンド率で成長すると予想していると強調した。

 経済見通しに関連するリスクと不確実性について議論した。ほぼすべての参加メンバーは、インフレ見通しに対する上振れリスクは後退したと見ている一方で、雇用に対する下振れリスクは高まったと見ている。その結果、参加メンバーは、当委員会の二つの使命の目標達成に対するリスクは概ね均衡していると評価している。しかし、一部の参加メンバーは、労働市場の状況がさらに悪化するリスクが高まったとは考えていない。労働市場の冷え込みや低・中所得世帯の家計への圧力が継続することによる個人消費の予想以上の落ち込みを懸念する参加メンバーもいた。 連邦準備制度の目標金利であるFF金利の誘導目標が前回引き上げられて以来、当委員会の物価安定目標の達成を阻むリスクは大幅に低下しており、大半の参加メンバーはインフレリスクは概ね均衡していると見ている。 また、一部の参加メンバーは、地政学的な展開に伴うインフレ上昇リスクを特に指摘した。さらに、一部の参加メンバーは、金融情勢の予想以上の緩和、予想を上回る消費の伸び、住宅サービス価格の大幅な上昇の継続によって、当委員会の2%インフレ目標に向けた進展が停滞するリスクを指摘した。

■金融政策決定に関する議論

 参加メンバーは、インフレ率が当委員会の目標に向けてさらに進展しているものの、依然としてやや高止まりしていることを指摘した。ほぼ全ての参加メンバーは、インフレ率が2%に向けて持続的に推移しているとの見方を強めた。参加メンバーは、最近の経済指標が、経済活動は堅調なペースで拡大を続けており、雇用増加ペースは鈍化し失業率は上昇したものの依然として低水準にあることを示していると指摘した。ほぼ全ての参加メンバーは、当委員会の雇用およびインフレ目標達成に対するリスクは概ね均衡していると判断した。インフレの進展とリスクの均衡を踏まえ、全ての参加メンバーは金融政策のスタンスを緩和することが適切であることに同意した。当委員会が初めてFF金利の目標水準を5.25~5.50%に設定して以来、大幅な進展が見られたことを踏まえ、参加メンバーの大半は、FF金利の目標水準を50ベーシス・ポイント引き下げ、4.75~5.00%とすることを支持した。

 これらの参加メンバーは、概ね、金融政策のスタンスをこのように調整し直すことで、最近のインフレおよび労働市場の指標とより整合的なものになるだろうと指摘した。また、このような措置は、インフレの進展を促しつつ、経済と労働市場の好調さを維持するのに役立つであろうこと、そして、リスクのバランスを反映するものであることを強調した。しかし、経済成長は堅調で失業率は低水準にとどまっている一方で、インフレは依然としてやや高止まりしていることを指摘し、一部の参加メンバーは、今回の会合では目標レンジを25ベーシスポイント引き下げることを望んでいたと述べた。複数の参加メンバーは、25ベーシスポイントの引き下げは、経済の進展に伴い金融引締めの度合いを評価する時間を政策立案者に与える、段階的な金融政策正常化の道筋に沿ったものであると指摘した。一部の参加メンバーは、金融引締めの度合いを決定するにあたっては、今回の会合における具体的な緩和幅よりも、金融政策正常化の全体的な道筋の方がより重要であると指摘した。参加メンバーは、FRBの証券保有高を減らすプロセスを継続することが適切であると判断した。

 金融政策の見通しについて議論する中で、参加メンバーは、インフレ率が持続的に2%に向かって低下し、経済がほぼ完全雇用に近い状態になるという見通しが概ね実現した場合、より中立的な政策スタンスへと徐々に移行することが適切であろうと予測した。参加メンバーは、今回の会合における政策スタンスの調整は、経済見通しがそれほど良くないことの証拠や、金融緩和政策のペースが参加メンバーの考える適切な経路よりも速いことを示すシグナルとして解釈されるべきではないことを伝えることが重要であると強調した。金融引締めの度合いについてはさまざまな見解が示された。参加メンバーは概ね、当委員会の金融政策決定は経済の推移と経済見通し、リスクのバランスに左右されるものであり、あらかじめ定められた方針に基づくものではないことを伝えることの重要性を指摘した。また、複数の参加メンバーは、当委員会がFF金利の誘導目標を引き下げたとしても、連邦準備制度のバランスシートの縮小はしばらく継続する可能性があることを伝えることの重要性を論じた。

 金融政策の見通しに影響を与える可能性があるリスク管理上の考慮事項について議論する中で、ほとんどの参加メンバーはインフレの上振れリスクが後退したことに同意し、大半は雇用の下振れリスクが高まったと指摘した。一部の参加メンバーは、金融引締め開始のタイミングが遅すぎたり、抑制の度合いが不十分であったりすると、経済活動や雇用が過度に弱まるリスクがあると強調した。一部の参加メンバーは、景気後退が本格化した場合のコストと課題を特に強調した。また、一部の参加メンバーは、金融引締めを早急に、あるいは過度に緩和した場合、インフレの進展が停滞したり、後退するリスクがあると指摘した。一部の参加メンバーは、長期的な中立金利水準に関する不確実性は、金融引締めの度合いを評価することを複雑にするため、彼らの見解では、金融引締めを徐々に緩和することが適切であると述べた。

(H・N)

[ゴールデンチャート社]

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■関連情報(外部サイト)
FOMC議事録(原文、FRB)