金融引締め効果の確認には時間を要する=FOMC議事録 2022年11月24日 10時27分
[ゴールデンチャート社] 2022年11月24日
11月23日、米連邦準備理事会(FRB)は、11月1日、2日の連邦公開市場委員会(FOMC)の議事録を公開しました。FOMCは今回の会合で連続4回となる0.75%の利上げと量的引締め政策の維持を決定しました。米国のインフレ率は高止まりし沈静化の兆しが見えず、米国経済の伸びは下振れしている中、金融引締め政策の効果の実現が確認されるまでには時間がかかるとの見解を示しました。フェデラルファンド金利の最終的な水準や時期については明言を避けてました。
FOMC議事録(要旨)
■米国経済の現状と見通しに関する議論
- 最近の経済指標は支出と生産の緩やかな伸びを示唆しているが、ここ数カ月は雇用が堅調に推移し、失業率も低水準にとどまっている。インフレ率は、パンデミックに関連した需給の不均衡、食料・エネルギー価格の上昇および、より広範な物価上昇圧力を反映して、高止まりしている。ロシアの対ウクライナ戦争が甚大な人的・経済的苦難を引き起こしている。戦争とそれに関連する出来事は、インフレにさらなる上昇圧力をもたらし、世界的な経済活動の重荷になっている。こうした背景から、当委員会の参加メンバーは引き続きインフレ・リスクに強い関心を示している。
- 第3四半期の実質GDPは回復したものの、最近のデータから、短期的な経済活動は成長率のトレンドを下回るペースで推移する可能性が高いことを確認した。参加メンバーは、個人消費と企業消費の伸びが軟化していることを指摘し、金融引き締めに対応して金利に敏感なセクター、特に住宅部門で顕著な減速が見られたと述べた。参加メンバーは、インフレ率が高すぎ、緩やかになる兆しがほとんどない現状において、トレンドを下回る実質GDP成長率が継続する期間が、総供給と総需要のバランスを改善し、インフレ圧力を低減し、「最大雇用」と物価安定という当委員会の目標を達成するための舞台として有効であろうとの見解を示した。
- 家計部門では、個人消費の伸びが最近軟化している。特に低・中所得者層で、より低価格の商品への買い替えが進んでおり、裁量支出が減少しているとの指摘があった。参加メンバーは、家計のバランスシートは全体としてまだ強固であり、このことが引き続き個人消費を支えるだろうとの見方を示した。
- 企業部門については、設備投資の支出の伸びが緩やかであり、企業の投資が金融引き締めの影響を受けているとの見方があった一方で、一部の企業関係者は投資支出が回復しているとの見方を示したという。
- 世界的にインフレが高進する中、多くの中央銀行が同時に金融引き締めを行い、世界の金融情勢の全体的な引き締めに寄与している。世界的な金融引き締めが、エネルギー価格やその他の逆風とともに、世界の実質GDPの成長率鈍化に寄与しているとのことが指摘された。参加メンバーは、海外経済(米国外の経済)の減速が、ドル高と相まって米国の輸出セクターを圧迫している可能性が高いと指摘し、米国経済への波及が拡大する可能性があるとコメントがあった。
- 失業率が歴史的な低水準にあること、求人数が非常に多いこと、解雇が少ないこと、雇用が堅調であること、名目賃金が上昇している現状から、労働市場が非常にタイトな状態にあることを確認した。経済活動の鈍化にもかかわらず、労働市場はこれまでの好調さを維持している。一部の企業は最近の労働力不足や雇用問題を経験した後、労働者の確保に熱心であり、労働市場の不均衡が徐々に解消され、失業率は現在の非常に低い水準からやや上昇し、欠員率は低下すると予想している。
- インフレ率が受け入れがたいほど高く、当委員会の長期目標である2%を大幅に上回っている。一部の参加メンバーは、高いインフレによる負担が、食料、エネルギー、住居などの生活必需品が支出に占める割合が高い低所得世帯に偏在していることを指摘した。一部の参加メンバーは、最近の名目賃金の高い伸びと生産性の低い伸びを考え合わせると、もしそれが持続するならば、2%のインフレ目標の達成と矛盾することになると指摘し、何人かの参加メンバーは、名目賃金の伸びが緩やかになる兆しがあることを指摘した。
- 長期的なインフレ期待がインフレの動向に重要な影響を及ぼすことに留意し、こうした期待が十分に浸透する状態を確保するためには、当委員会の継続的な金融引き締めが不可欠であることが強調された。何人かの参加メンバーは、インフレ率が2%の目標を大幅に上回る状態が長く続けば続くほど、長期的なインフレ期待が浸透されなくなるリスクが高まるとの懸念を表明した。そのような展開が現実のものとなれば、インフレを低下させ、最大限の雇用と物価安定という当委員会の目標を達成するためのコストははるかに高くなるであろうとの指摘があった。
- 金融引き締めは通常、金融情勢に急速な効果をもたらすが、金融情勢の変化が総支出や労働市場、ひいてはインフレに及ぼす完全な効果は、実現するまでに時間がかかる可能性が高い。現在の状況について、多くの参加メンバーは、金融引き締めが明らかに金融情勢に影響を与え、一部の金利に敏感な部門で顕著な効果があったとしても、経済活動全体、労働市場、インフレに効果を示すのタイミングは極めて不確実であり、効果の全容が明らかになるには至っていない、と指摘した。経済見通しに関する不確実性が高く、インフレ見通しに対するリスクは依然として上方に傾いている。
- 経済活動の見通しに関するリスクは下方に偏っていると判断する参加メンバーが多く、様々な世界的な逆風が顕著に挙げられた。中国経済の減速や、ロシアの対ウクライナ戦争が国際経済に与える影響など、世界的にインフレ圧力が高く、他の多くの国で金融引き締めが行われており、これが海外の経済活動に影響を与え、米国経済への波及の可能性があるとの指摘もあった。
■金融政策に関する基本スタンス
- 金融政策の検討にあたり参加者メンバーは、インフレ率が当委員会の長期目標である2%を大幅に上回って推移しており、インフレに関する最近のデータからはインフレ圧力が弱まる兆しがほとんど見られないことに同意した。景気拡大は昨年の急速なペースから大幅に減速し、最近の指標では今期の支出と生産は小幅な伸びにとどまることが示唆された。成長率の鈍化にもかかわらず、労働市場は極めてタイトで、名目賃金の伸びは依然として高い水準にある。このような背景から、全ての参加メンバーは、今回の会合でフェデラルファンド金利の目標レンジを75bp引き上げ、5月に当委員会が公表した「連邦準備制度のバランスシート縮小計画」で説明したように、連邦準備制度の保有証券の削減プロセスを継続することが適切であるとの見解で一致した。参加者は、今回の政策金利の引き上げは、需給の不均衡を緩和しインフレ率を長期的に2%に戻すためであり、当委員会の金融政策として十分な引締め状態に達するのにもう一歩であるとの見解を示した。
- 参加メンバーは、フェデラルファンド金利金利の目標レンジを継続的に引き上げることが適切であり、長期的なインフレ期待への定着に資するとの見解で一致した。参加者は、実質経済活動とインフレの双方について、金融引締め効果が完全に実現するまでには時間がかかり、こうした時間差が金融政策の効果の評価を複雑にしていることに留意している。当員会の目標達成に必要なフェデラルファンド金利の最終水準には大きな不確実性があり、その評価は入ってくるデータに左右される。インフレが今のところ収束する兆しがほとんどなく、経済における需給の不均衡が続いていることから、当委員会の目標を達成すためのフェデラルファンド金利の最終的な水準についての評価は、これまでの予想よりもやや高くなるとの指摘があった。
- 多くの参加メンバーは、金融政策が当委員会の目標を達成するための十分な金融引締め状態に近づけば、フェデラルファンド金利の目標レンジの引き上げペースを緩めることになるとの見方を示し、利上げペースの鈍化が近いうちに適切になる可能性が高いと判断している。
(H・N)
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