金融政策判断は慎重な政策スタンスで=FOMC議事録 2025年02月20日 09時52分
米連邦準備理事会(FRB)は1月28日、29日に開かれた連邦公開市場委員会(FOMC)の議事録を公開しました。今回の会合でFOMCは、フェデラルファンド金利(FF金利)の目標レンジを4.25~4.50%に据え置くことを決定しました。
FF金利を据え置いた理由として、「今後、金融政策のスタンスを追加的に調整することを検討するにあたっては、慎重なアプローチが適切であり、このようなアプローチを支持する理由として、労働市場と経済活動の見通しに対する下方リスクの減少、インフレ見通しに対する上方リスクの増加、中立金利、長期金利上昇の抑制の度合い、または潜在的な政府政策の経済効果に関する不確実性などの要因ある」との議論がありました。トランプ政権の政策変更が労働市場やインフレに与える影響を慎重に見極めていく必要性を示唆しています。インフレ見通しに対する上振れリスクを指摘され、特に、貿易および移民政策の変更による影響、地政学的な要素がサプライチェーンを混乱させる可能性、または予想を上回る家計支出の可能性が指摘されています。
FOMC議事録(要旨)
■米国経済の現状と見通しに関する議論
【インフレ】
参加メンバーは過去2年間にインフレが大幅に緩和したことを確認した。しかし、インフレは長期的目標とする2%と比較すると依然としてやや高く、その目標に向けた進展は過去2年間で鈍化している。入手可能なデータによると、12月までの1カ月間のPCE物価総合指数は約2.6%上昇し、変動の激しい消費者食品およびエネルギーのカテゴリーを除いたコアPCE物価指数は2.8%上昇した。多くの参加メンバーは、12カ月間のインフレ率の現在の数値は昨年第1四半期の比較的高いインフレ率によって押し上げられたと指摘し、複数の参加メンバーは、過去3カ月、6カ月、9カ月の累積インフレ率は、12カ月間の数値よりも大きいと指摘した。ほとんどの参加メンバーは、11月と12月の前月比インフレ率は、いくつかの主要なサブカテゴリーを含め、当委員会の目標である物価安定に向けて顕著な進展を示したとコメントした。しかし、多くの参加メンバーは、インフレ率が2%に持続的に進行しているという見方を裏付けるには、さらなる証拠が必要であると強調した。前年の大半にわたって高止まりしていた住宅サービス価格指数が低下を示したほか、市場ベースのコア非住宅サービス価格指数も低下を示した。また、複数の参加メンバーは、コア商品価格がここ数カ月間、2024年前半と比べてそれほど大きく下落していないと指摘した。
インフレ見通しについて参加メンバーは、適切な金融政策のもとではインフレ率は2%に向けて引き続き推移するものの、進展の度合いはまちまちになる可能性があると予想した。参加メンバーは、インフレ率に継続的な下方圧力がかかると考えられる要因として、名目賃金の伸びの鈍化、しっかりと定着した長期的なインフレ期待、企業の価格設定力の低下、当委員会の金融引締め政策スタンスなどを挙げた。しかし、一部のメンバーは、現在のフェデラル・ファンド金利(FF金利)の目標レンジは中立金利(*1)をそれほど上回っていない可能性があると指摘した。さらに、労働市場の需給はほぼ均衡しており、最近の生産性向上を考慮すると労働市場の状況は当面インフレ圧力となる可能性は低いと一部の参加メンバーは述べた。しかし、貿易や移民政策の潜在的な変更の影響や旺盛な消費者需要などディスインフレ(*2)のプロセスを妨げる可能性のある要因も指摘された。多くの地区の企業関係者は、企業が潜在的な関税による調達コストの上昇分を消費者に転嫁しようとするだろうと指摘した。
(*1)中立金利 ; 景気を刺激したり抑制したりしない政策金利の水準を指し、政策金利が中立金利より低ければ金融緩和となり、高ければ金融引締めとなる。
(*2)ディスインフレ ; 物価の上昇率が低下していく状態で、インフレから抜け出しているもののデフレにはなっていない状況。
【労働市場】
参加メンバーは労働市場の状況は依然として堅調であり、その状況は当委員会の目標である「最大雇用」と概ね一致していると判断した。2024年最後の3か月間の給与所得者の増加数は月平均17万人であり、失業率は比較的低い水準で安定している。また、参加メンバーは、求人件数、離職率、労働者の入れ替わりといった最新の経済指標は概ね安定した労働市場の状況と一致していると指摘した。一部の地区の企業関係者は、自社では雇用水準が安定し、賃金が緩やかに上昇すると予想していると指摘した。
【米国経済】
参加メンバーは、米国経済は堅調なペースで拡大を続けており、最近の経済活動に関するデータ、特に個人消費は、全体として予想を上回る強さであると指摘した。参加メンバーは、消費は堅調な労働市場、上昇する家計純資産、そして生産性向上と一部関連する実質賃金の増加によって支えられていると述べた。複数の参加メンバーは、低・中所得世帯は依然として財政的な圧迫を経験しており、それが消費を抑制する可能性があると警告した。一部の参加メンバーは、クレジットカードや自動車ローンの延滞率が引き続き上昇していることを、そうした圧力の兆候として挙げた。
【企業部門】
企業部門に関して参加メンバーは、設備や無形資産への投資は過去1年間堅調であったものの、第4四半期には減速したようだと指摘した。一部の参加メンバーは、労働供給、企業投資、生産性の向上など、供給面の好ましい動向が企業活動の堅調な拡大を支え続けていると指摘した。多くの参加メンバーは、地区の関係者や企業への調査から、経済見通しについてかなりの楽観論が報告されていると述べた。その背景には、政府規制の緩和や税制変更への期待がある。一方で、一部の参加メンバーは、連邦政府の政策変更の可能性について、関係者から不確実性が高まっているとの報告があったと指摘した。また、複数の参加メンバーは、農産物価格の低迷と投入コストの高騰により、農業部門は依然として大きな圧力に直面していると述べた。
【経済見通し】
経済見通しに関連するリスクと不確実性について評価した結果、参加メンバーの大半は当委員会の2つの責務である「最大雇用」と物価安定の達成に対するリスクはおおむね均衡していると判断したが、一部の参加メンバーは、現状では物価安定の達成に対するリスクの方が「最大雇用」のリスクよりも大きいと指摘した。参加メンバーは概して、インフレ見通しに対する上振れリスクを指摘した。特に、貿易および移民政策の潜在的な変更の影響、地政学的な要素がサプライチェーンを混乱させる可能性、または予想を上回る家計支出の可能性を参加メンバーは挙げた。数名の参加メンバーは、今後、インフレの持続的な変化と、新しい政府政策の導入に伴う一時的な変化とを区別することが特に困難になる可能性があると指摘した。参加メンバーは、経済活動と雇用に関するさまざまなリスクを指摘し、その中には、労働市場の予想外の低迷、消費者の財務状況の悪化、金融情勢の引き締めに関連する下振れリスク、および企業にとってより好ましい規制環境の可能性や国内支出の継続的な堅調さに関連する上振れリスクとして含まれている。
■金融政策決定に関する議論
参加メンバーはインフレ率が依然としてやや高い水準にあることを指摘した。また、最新の経済指標が経済活動が堅調なペースで拡大を続けていること、失業率が低水準で安定していること、労働市場の状況がここ数カ月間堅調に推移していることを示していると指摘した。金融政策が、過去3回の金融緩和以前よりも大幅に引締め状態から脱していることを受け、参加メンバー全員が、FF金利の目標レンジを4.25~4.50に維持することが適切であると判断した。参加メンバーは、FRBの証券保有高を減らすプロセスを継続することが適切であると判断した。
金融政策の見通しについて参加メンバーは、経済活動、労働市場、インフレの見通しについて、当委員会は時間をかけて評価する立場にあると指摘した。また、大半の参加メンバーは、依然として金融政策は引き締め状態にあると指摘、米国経済が「最大雇用」に近い状態を維持している限り、FF金利の目標レンジをさらに調整する前に、インフレのさらなる改善を見たいと表明した。参加メンバーは、金融政策決定はあらかじめ決められたコースに沿って行われるものではなく、経済の推移、経済見通し、リスクのバランスによって左右されるものであると指摘した。
金融政策の見通しに影響を与える可能性のあるリスク管理に関する考察について議論する中で、参加メンバーの大半は、現在の高い不確実性を踏まえ、金融政策のスタンスを追加的に調整することを検討するにあたっては、当委員会が慎重なアプローチを取ることが適切であると指摘した。参加メンバーがこのようなアプローチを支持する理由として挙げた要因には、労働市場と経済活動の見通しに対する下方リスクの減少、インフレ見通しに対する上方リスクの増加、中立金利、長期金利上昇の抑制の度合い、または潜在的な政府政策の経済効果に関する不確実性などがある。多くの参加メンバーは、経済が堅調に推移し、インフレ率が高止まりする場合には、当委員会は政策金利を引締め状態を維持できると指摘した。一方で、労働市場の状況が悪化したり、経済活動が低迷したり、インフレ率が予想よりも早く2%に戻った場合には金融緩和ができる、との意見も複数あった。
バランスシートに関する議論の中で、多くの参加メンバーは、FRBの証券保有規模縮小プロセスが終了した後に実施される米国国債の流通市場での購入における構成について、市場の混乱リスクを最小限に抑えつつ、SOMA(*3)ポートフォリオの満期構成を国債発行残高の構成により近づけるような購入方法を構築することが適切であるとの見解を示した。また、今後数カ数カ月にわたって債務上限の動向に関連して準備金が大幅に変動する可能性について、この問題が解決するまではバランスシートの縮小を一時停止または減速させることも検討すべきであると指摘があった。さらに複数の参加メンバーは、SRF(*4)の有効性を改善する可能性のある方法をFRBが今後検討することに賛成の意を示した。
(*3)SOMA ; ニューヨーク連邦準備銀行が、金融政策を遂行する過程で公開市場操作を通じて購入した有価証券を管理する口座。System Open Market Account の略。
(*4)SRF ; FRBが導入した常設流動性短期資金の供給枠組み。Standing Repo Facility の略。
(H・N)
[ゴールデンチャート社]
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FOMC議事録原文(FRB)