【2024年10月30日~31日】金融政策決定会合における主な意見(要約) 2024年11月11日 16時09分
金融政策決定会合における主な意見(2024年11月11日)
1.金融経済情勢に関する意見
(1)経済情勢
- わが国経済は、一部に弱めの動きもみられるが、緩やかに回復しており、先行きも、所得から支出への前向きの循環メカニズムが徐々に強まることから、潜在成長率を上回る成長を続けるとみられる。
- わが国経済の現状は、個人消費の伸びは依然としてやや弱めながらも、生産、雇用、所得などは緩やかに伸びている。
- 今後は、実質賃金上昇基調の定着により、個人消費も拡大基調がより明確になるのではないかと考えている。賃金上昇から消費拡大への需要側の経路、さらには賃金上昇の価格転嫁という供給側の経路が円滑に機能しているかについては、今後もよく注視する必要がある。
- Eコマースの情報捕捉に限界があることや、コロナ禍以降の消費者の行動変容の影響、企業の購買データを用いた価格戦略の高度化なども踏まえると、個人消費や経済の情勢を判断するにあたり、マクロデータに対する目線を上げすぎず、コロナ禍以前とは異なる基準で評価することが適切である。
- 米国の長期金利上昇が、今後もある程度持続するようなことがあれば、PERのようなバリュエーションの調整を起点として、株式や不動産等の資産価格が下落し、これが消費や設備投資等の実体経済に波及するといったように、米国経済を減速させるリスクがある。
- 人手不足のもと、中小企業も含めて賃上げの必要性が当然視される状況になっており、来年の賃上げ率も高水準が続くと見込まれる。
- 支店長会議では、中小企業は業績が厳しい中で人材係留目的の防衛的賃上げを行っているとの声も多く聞かれ、賃上げの持続性には懸念がある。相応の時間がかかるが、持続可能な前向きな賃上げを実施できるよう、中小企業自身も生産性を高めるための一回り大きくなる事業構造改革に取り組むことが鍵になる。
- 中小企業の経営者からは、円安の修正を歓迎し、「経営に影響が大きいのは金利よりも為替だ」とする声がかなり聞かれる。また、各種のアンケート調査をみると、家計も円安の修正を歓迎しているのではないか。
- 人手不足による労働供給の制約から、収益性の低い事業分野からの撤退に伴う企業の事業縮小などを通じて、わが国経済の成長を減速させるリスクがある。
(2)物価
- 消費者物価の基調的な上昇率は徐々に高まっていくと予想され、見通し期間後半には「物価安定の目標」と概ね整合的な水準で推移すると考えられる。
- 10月の東京都区部の消費者物価は、米の値上がりと、その影響により外食が上振れているが、それ以外は、サービス価格の改定の動きを含めて、ほぼ見通し通りと評価できる。
- 円ベースの輸入物価指数がピークをつけてから2年余り、その後概ね下げ止まってからでも1年半が経っている。 従 来 の パターンをみると、輸入物価から消費者物価への波及がピークを迎えるのは概ね半年後なので、輸入物価上昇の影響の減衰という現象はそろそろ出尽くすのではないか。
- 今後の日米の財政政策の展開とそのもとでの為替相場の動向について、物価への影響を懸念している。
2.金融政策運営に関する意見
- 経済・物価の見通しが実現していくとすれば、それに応じて、金融緩和の度合いを調整していくという基本的な考え方に変わりはない。そのうえで、米国をはじめとする海外経済の今後の展開や金融資本市場の動向を十分注視し、わが国の経済・物価の見通しやリスク、見通しが実現する確度に及ぼす影響を見極めていく必要がある。
- 米国経済の不透明感が低下する中で、「時間的余裕」という言葉で情報発信をしていく局面ではなくなりつつある。引き続き様々な不確実性に留意すべき状況ではあるが、今後は、毎回の会合で、その時点のデータに基づき、リスクや見通しの確度を点検していくことを伝えていくことが重要である。
- 米国経済のハードランディングのリスクや、ソフトランディングのために大幅な利下げが必要となる可能性は、若干和らぎ、米金利上昇とドル高の動きが出てきている。もっとも、その背景には、米国経済指標の改善だけでなく、大統領選挙・議会選挙への思惑もあり、市場が安定に向かっていると評価してよいかは留保が必要である。もともと緩やかなペースの利上げを想定している中で、大統領選挙後の状況を含め、今後の展開を見ることはできる。
- 「経済・物価の見通しが実現していくとすれば、それに応じて、引き続き政策金利を引き上げていく」というコアメッセージを、しっかりと発信していくことが重要である。
- 内外における不確実性の高まりに鑑みると、金融政策運営をより慎重に行っていく必要があることから、今回は、金融政策は現状維持で良いと考える。
- いわゆる「金利のある世界」への移行には、相応の不確実性があるため、この先の政策金利の引き上げは時間をかけて慎重に行う必要がある。
- 過去5回の利上げ局面では、米国の利下げ後に日本は利下げに転じたが、今回局面は過去とは異なる。日米の金融機関や企業、家計のバランスシート調整圧力が生じておらず、大幅な金融緩和が求められる局面ではない。米国経済の動向を確認するために一時的に様子見した後、追加的な利上げを展望していく状況と言える。
- 日米の金融政策の方向性が逆となるもとで、為替市場を中心に市場が大きく変動する可能性もあるなか、仮に日本銀行の追加的な利上げを契機にショックが生じた場合、長期的にみた金融政策の正常化に支障が生じる可能性にも留意する必要がある。
- 米大統領選挙の結果次第では市場が大きく変動する可能性が高いため、それに十分備えておくことも必要である。
- 米欧のインフレ率低下や、グローバル市場での価格競争の進展の影響もあって、物価の上振れ懸念は後退している。多くの経済データにより、企業業績、設備投資、個人消費、価格転嫁率、企業による事業構造改革の動向等の実態を評価し、「賃金と物価の好循環」の持続性に対する自信が強まるまで、当面、政策金利は現状維持でよい。
- 経済・物価が想定通り推移する場合、早ければ2025年度後半に1.0%の水準まで段階的に利上げしていくパスを前提とすれば、経済・物価の進捗を見守る時間が今回はある。
- 中立金利の水準についても金融政策の波及メカニズムについても不確実性が高いので、中期的な金利パスについて自信を持って市場に示していくことは難しい。
- 金融機関の資金運用について気にしている点としては、相対的にリスク許容度の大きくない先において、金利の水準が投資目線に届かない期間が続くと、キャリー収益のために長期国債への投資を進め、リスクが増加する可能性である。
- 国債先物取引におけるチーペスト銘柄の需給ひっ迫というイールドカーブ・コントロールの副作用によって、国債市場の流動性の低下や金利の歪みが懸念される。それを軽減するため、国債補完供給の減額措置をためらうことなく利用してもらえるよう、引き続き促していくことが重要である。
3.政府の意見
(1)財務省
- デフレ脱却最優先の経済財政運営を行う方針であり、その第一歩として、10月4日に総理から経済対策の策定指示があり、策定作業を進めている。今後、総合的な経済対策を決定し、補正予算を提出する。
- 日本銀行には、政府との緊密な連携のもと、2%の物価安定目標の持続的・安定的な実現に向けた適切な金融政策運営を期待する。その上で、情報発信を含め、しっかりと金融資本市場とコミュニケーションを図っていただきたい。
(2)内閣府
- わが国経済は、一部に足踏みが残るものの、緩やかに回復していると認識している。ただし、海外景気の下振れ等に十分注意が必要である。
- 「経済あっての財政」との考え方に立ち、デフレ脱却最優先の経済財政運営を行い、「賃上げと投資が牽引する成長型経済」の実現を図る。
- 日本銀行には、引き続き政府と緊密に連携し、十分な意思疎通を図りながら、2%の物価安定目標の持続的・安定的な実現に向けて、適切な金融政策運営を期待する。
以上
[ゴールデン・チャート社]
■関連リンク
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■参考資料(外部サイト)
金融政策決定会合における主な意見(2024年10月30日、31日開催分)(日本銀行)