【2025年3月18日~19日】金融政策決定会合における主な意見(要約) 2025年03月28日 17時34分
金融政策決定会合における主な意見(2025年3月28日)
1.金融経済情勢に関する意見
(1)経済情勢
- わが国経済は、一部に弱めの動きもみられるが、緩やかに回復しており、先行きも、所得から支出への前向きの循環メカニズムが徐々に強まることから、潜在成長率を上回る成長を続けるとみられる。
- わが国の実体経済は緩やかに改善し、物価はやや上振れている。
- 春季労使交渉の賃上げ率は、これまでのところ、昨年の数字を若干上回っており、2%の「物価安定の目標」と整合的な名目賃金上昇がしっかりと定着しつつある。
- 中小企業の春季労使交渉における賃上げ率の前年からの上振れ幅は大企業より大きく、2022年以降の価格転嫁の進捗と同様、大企業が先行し、中小企業が追いかける形である。
- 春季労使交渉の出だしは、1月に予測した範囲であるが、良好だった。食品などの物価高の中で1月の個人消費は弱めだったが、先行きは賃上げが消費の後押しに働くとみられる。
- 法人企業統計をみると、雇用の7割を占める中小企業では、賃金は増加する一方、設備投資は2年連続で減少している。労働分配率が高い中、防衛的賃上げと設備投資の両立は難しい状況が窺われ、賃上げの持続性に懸念が残る。
- 賃上げノルムの定着には、中小企業の設備投資ともう一回り大きくなる構造改革が鍵となる。
- 米国新政権の政策を巡る不透明感は、各国の企業・家計のコンフィデンスに影響するものであり、世界経済の不確実性は高まっている。
- 前回会合以降のリスク要因の変化としては、米国の政策運営に起因する世界経済の不確実性の高まりが指摘できる。
- 米国経済は、雇用情勢が引き続き底堅く、ソフトランディング路線を歩んでいる。
- 米国ではインフレリスクと景気後退リスクが両方高まっている。
(2)物価
- 消費者物価の基調的な上昇率は徐々に高まっていくと予想され、見通し期間後半には「物価安定の目標」と概ね整合的な水準で推移すると考えられる。
- 春季労使交渉の集計結果などを踏まえると、物価は着実な上昇が見込まれる状況となっており、基調的な物価上昇率も2%に向けて順調に上昇している可能性が高い。
- 今後の米国新政権の政策運営次第では、グローバルな経済・物価動向や金融・為替市場の変動などを介して、わが国の物価にも影響が及びうる。
- 1月の消費者物価指数(総合)の上昇率の過半はエネルギー、生鮮食品、穀類によるものだが、エネルギーの上昇は一時的な性格が強い。生鮮食品、穀類の上昇は、主に供給ショックと位置づけられるが、持続性がありうるため、いずれも予想物価上昇率などへの波及を注視すべきである。
- 農産物の価格高騰は、供給力低下や人件費上昇等、一過性でない要因の影響が大きい。更に、家計のインフレ予想を押し上げ、物価の基調に大きく影響する。
- 企業の価格転嫁にはまだ時間が掛かっており、価格上昇圧力はしばらく継続すると考えている。例えば、民間調査によれば、2025年の食料品の価格改定の動きも再び勢いを増している。
- 高水準の賃上げが実現し、国内要因のインフレ圧力などから、「物価安定の目標」の実現が目前に迫りつつある段階であり、来年度には、こうした前提で情報発信する新たな局面に入るといえる。
2.金融政策運営に関する意見
- 経済・物価の見通しが実現していくとすれば、それに応じて、引き続き政策金利を引き上げ、金融緩和の度合いを調整していく。そのうえで、具体的な金融政策運営については、予断をもたず、経済・物価の見通しやリスク、見通しが実現する確度をアップデートしながら、適切に判断していく必要がある。
- 当面、米国新政権の政策とその世界経済・国際金融資本市場への影響を注視しながら、国内的には0.5%という新しい金利水準の下での経済・物価の反応を見極めていくことが適当である。そのうえで、次の利上げを判断すべきである。
- 1月までの政策金利変更の影響や、このところの長期金利の変動の影響を確認するうえで、まだ十分なデータが揃っていない。経済活動への本格的波及とその影響の確認には時間が必要である。
- 米国発の下方リスクは足許で急速に強まっており、関税問題の今後の展開次第では、わが国の実体経済にまで悪影響を与えていく可能性が十分ある。その場合には、利上げのタイミングをより慎重に見極めることが必要である。
- 米国の関税政策やサプライチェーンの分断など不確実性が高く、価格競争力の高い中国製品との競争激化も懸念され、日本経済への下押しリスクが高まっている。中小企業の業績・投資、賃金・物価の動向や米国関税政策の影響を入念に確認しつつ金融政策を調整する必要があるため、当面は現状の金融政策を維持することが適当である。
- 次回会合では、①企業や家計のインフレ予想、②物価上振れリスクの顕在化、③賃上げの進展をしっかりと確認し、金融政策を判断していく必要がある。
- 米国経済は、減速を示す指標もあるが、雇用関連指標などは底堅い。不確実性は高いが、政策変更を急がないとのFRBの情報発信も踏まえると、日本銀行の政策の自由度は引き続き増した状況と捉えている。
- 不確実性は高まっているが、だからといって常に政策対応を慎重にすればいいというわけではなく、今後の状況によっては、果断に対応すべき場面もありうる。各国の通商政策等から物価に上下双方向の不確実性がある時に、不確実だから現状維持、金融緩和を継続する、ということにはならない。
- 次の利上げを行う局面では、基調的な物価上昇率が2%の目標にかなり近づいていることも想定されるため、金融政策のスタンスを従来の緩和から中立へ転換させる点も含めて検討していく必要性がある。
- 資産価格上昇に伴う期待収益率向上から、市場参加者は、実質金利を消費者物価で捉える以上に低位に感じ、緩和効果がより強まっている可能性がある。今後、過度な緩和継続期待の醸成による金融の過熱を避ける観点から、金融緩和度合いの調整を機動的に行う必要がある。
- 国債買入れの減額計画について、今のところは、既存の計画を大きく変更する必要性は感じないが、2026年4月以降に関しては、より長期的な視点から検討する必要がある。
- 国債買入れ減額の中間評価で、国債市場の動向や市場機能を点検する際、市場参加者の見方を伺うことになるが、そのプロセスでの市場との対話は、長期金利の安定の観点からも重要である。
3.政府の意見
(1)財務省
- 政府は、賃金・所得の増加を最重要課題とし、賃上げ環境の整備や成長分野における投資促進などにより、生産性や付加価値を高め、安定的に賃金・所得が増えていくメカニズムを構築していく。
- 日本銀行には、政府との緊密な連携のもと、2%の物価安定目標の持続的・安定的な実現に向けた適切な金融政策運営を期待する。その上で、情報発信を含め、しっかりと金融資本市場とコミュニケーションを図っていただきたい。
(2)内閣府
- 日本経済は、一部に足踏みが残るものの、緩やかに回復していると認識している。ただし、足元の物価上昇が個人消費に与える影響や、米国の政策動向など世界経済を巡る不確実性等に十分注意が必要である。
- 政府は、物価動向を注視して適切な対応を行うとともに、賃上げの流れを中小企業や地方経済に広げる政策を推進する。
- 日本銀行には、政府と緊密に連携し、2%の物価安定目標の持続的・安定的な実現に向けて、適切な金融政策運営を期待する。
以上
[ゴールデン・チャート社]
■関連リンク
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■参考資料(外部サイト)
金融政策決定会合における主な意見(2025年3月18日、19日開催分)(日本銀行)