雇用とインフレのリスクの均衡を再確認=FOMC議事録 2024年11月27日 09時36分

 米連邦準備理事会(FRB)は11月6日、7日に開かれた連邦公開市場委員会(FOMC)の議事録を公開しました。今回の会合でFOMCはフェデラルファンド金利(FF金利)の目標レンジを0.25%引き下げる決定をしました。前回会合での0.50%利下げに続き、2会合連続の利下げとなりました。

 今回の会合では、雇用およびインフレ目標の達成に対するリスクは概ね均衡しているとの見解で一致する一方で、インフレ率が高止まりする場合には、当委員会は政策金利の引き下げを一時停止し引締め状態を維持することも可能であり、また、労働市場が悪化したり、経済活動が低迷したりした場合には、金融緩和を加速させることも可能であるとの意見も出ました。

FOMC議事録(要旨) 

■米国経済の現状と見通しに関する議論

【インフレ】

 インフレ動向に関する議論では、参加メンバーは、コアインフレ率が依然としてやや高いものの、インフレはピーク時から大幅に緩和しているとの見解を前回の会合に引き続き示した。ほぼすべての参加メンバーは、月ごとの変動は依然として不安定であるものの、今後発表されるデータは概ね持続的にインフレ率が2%に戻ることを裏付けると判断した。参加メンバーは、幅広いコア商品およびサービス価格でディスインフレの進展が見られたとコメントした。特に、コア商品と非住宅サービスの双方のテゴリーにおいて、現状の物価上昇率は、過去の物価安定期の水準に近い水準で推移している。多くの参加メンバーは、コアインフレの構成要素の減速は企業が価格引き上げに消極的になっているという、企業との接触を通じて得た報告を裏付けるものであると指摘した。また、消費者がより価格に敏感になり、値引きを求める傾向が強まっていることも、こうした傾向を裏付けている。一部の参加メンバーは、住宅サービス価格の上昇は依然としてやや高いものの、新規入居者の家賃上昇ペースがより落ち着いてきていて、これがいずれ住宅サービス価格に反映されることになるため、上昇は鈍化していくと想定していると述べた。

 インフレ見通しに関してインフレ率が2%に向けて持続的に推移しているとの確信を維持していると述べたが、その一方で、そのプロセスが以前の予想よりも長引く可能性を指摘するメンバーもいた。最近の力強い実質GDPの増加が、好ましい供給面の改善を反映している限り、経済活動の強さがインフレ圧力の上昇要因となる可能性は低いと指摘する参加メンバーもいた。参加メンバーは、企業の価格設定力の弱まり、当委員会の金融引締めスタンス、そしてしっかりと定着した長期的なインフレ期待など、インフレに継続的な下方圧力をかける可能性が高いとみられるさまざまな要因を挙げた。一部の参加メンバーは、名目賃金上昇率が引き続き低下傾向にあること、転職者が得られる賃金プレミアムが減少していることを指摘した。さらに、労働市場の需給がほぼ均衡しており、最近の生産性向上を考慮すると、賃金上昇が近い将来インフレ圧力となる可能性は低いと考える参加メンバーもいた。

【労働市場】

 労働市場の動向についての議論では、最近の数値は労働市場の状況が概ね堅調であることを示していると見られるが、労働争議や壊滅的なハリケーンが雇用データの暫定的な変動の重要な要因となったとみている。参加メンバーは、求人の減少、離職率の上昇は労働需要の緩やかな減少と一致していると指摘した。一部の参加メンバーは、より有能な求職者が多く集まる中、企業は採用に際してより厳選するようになっていると報告した。また、求職者は条件の悪い勤務形態や控えめな賃金提示を受け入れる傾向が強まっているという。しかし、参加メンバーは、概ねレイオフが依然として低水準に留まっていることから、労働市場の状況が急速に悪化する兆候は見られないと指摘した。移民が労働供給に及ぼす影響の測定が難しいこと、自然災害や労働争議の影響などが評価を複雑にしている要因として挙げられた。

 労働市場の今後の見通しとしては、現在の労働市場の状況は当委員会の長期目標である「最大雇用」と概ね一致していると判断した。また、参加メンバーは概ね、当委員会の金融政策スタンスが時間をかけて適切に再調整されることで、労働市場は堅調さを維持するだろうと予測した。参加メンバーは労働市場指標を注意深く監視する必要があることに同意した。一部の参加メンバーは依然として、労働市場が悪化するリスクが高まっていると見ていたが、多くの参加メンバーは、9月の会合以降、労働市場が過度に冷え込むリスクはいくらか低下したと見ていた。

【個人消費】

 参加メンバーは、最近の経済活動および個人消費に関するデータは概ね予想を上回るものであったと指摘し、経済活動は堅調なペースで拡大を続けており、個人消費は依然として堅調であると評価した。参加メンバーは、堅調な労働市場、実質賃金の増加および、家計資産の増加が消費を支えていると述べた。多くの参加メンバーは、家計所得および貯蓄率の最近データが上方修正されていることにより、これらのデータ系列の動きは個人消費の堅調さにより一致するようになったと指摘した。しかし、低・中所得世帯では依然として家計の圧迫状態が続いており、それが消費を抑制する可能性があると、複数の参加メンバーが警告した。また、複数の参加メンバーは、クレジットカードや自動車ローンの延滞率が最近上昇していることを、そうした圧迫の兆候として挙げた。

【企業部門】

 企業部門に関しては、労働供給、設備投資、生産性の向上など、好ましい供給面の動向が引き続き企業活動の堅調な拡大を支えていると指摘する参加メンバーが複数いた。数名の参加メンバーは、最近の生産性の伸び率の持続性についてはかなりの不確実性があると指摘した。 一部の参加メンバーは、生産性向上の一部は一時的な要因、例えば以前の労働力不足に対応するための一時的な効率性向上や労働力の過小評価による可能性があると指摘したが、一部の参加メンバーは、新規事業の立ち上げや投資、職場への技術進歩の統合といったより持続的な要因を強調した。一部の参加メンバーは、最近の傾向として、特に職場における人工知能活用の拡大がもたらす可能性について指摘した。複数の参加メンバーは、地方からの報告として、金融サービス、建設、専門サービス、テクノロジーなどのセクターの大企業は、製造業の中小企業や企業よりも概して楽観的な見通しを持っていると述べた。複数の参加メンバーは、農産物価格の低迷と投入コストの高騰により、農業セクターは引き続き大きな圧力に直面していると指摘した。

【景気見通し】

 景気見通しに関して参加メンバーは、インフレ見通しに対する上振れリスクはほとんど変化がないと見られる一方、雇用と成長に対する下振れリスクはやや減少したと見られると評価した。参加メンバーが挙げたインフレの上振れリスクとしては、地政学的な情勢による世界的なサプライチェーンの突然の混乱、予想を上回る金融緩和、予想を上回る消費、持続的な住宅価格の上昇、あるいは、医療、自動車、住宅に関する保険料の急騰などが考えられる。一部の参加メンバーは、世界経済の成長鈍化、地政学的な緊張の高まりや大幅な資産価格の調整による金融情勢の急激な悪化、労働市場の望ましくない弱体化など、経済活動と雇用に関するさまざまな下振れリスクを指摘した。ほぼすべての参加メンバーは、「最大雇用」と物価安定という2つの目標の達成に対するリスクはおおむね均衡していると判断した。

【金融システムの安定化】

 金融システムの安定性に関する議論では、参加メンバーは、監視が必要と評価した金融システムに対する脆弱性を指摘した。複数の参加メンバーは、銀行システムは健全であるものの、銀行資産の未実現損失に関連する潜在的なリスクが依然として存在していると指摘した。

■金融政策決定に関する議論

 金融政策の検討において、参加メンバーは、インフレ率が当委員会の目標に向けて進展しているものの、依然としてやや高止まりしていることを指摘した。また、最近の経済指標は、経済活動が堅調なペースで拡大を続けており、労働市場の状況は年初から概ね緩和しており、失業率は上昇しているものの依然として低水準にあることを示している。ほぼ全ての参加メンバーは、当委員会の雇用およびインフレ目標の達成に対するリスクはおおむね均衡していると判断した。当委員会の目標を支持する形で、すべての参加メンバーは、フェデラル・ファンド金利(FF金利)の誘導目標を25ベーシスポイント引き下げ、4.50%から4.75%にすることが適切であると判断した。参加メンバーは、金融政策のスタンスをこのように調整することは、インフレのさらなる改善の可能性が見込まれる中で、経済および労働市場の堅調さが維持される、と指摘した。参加メンバーは、FRBの証券保有高を減らすプロセスを継続することが適切であると判断した。

 金融政策の見通しの議論では、参加メンバーは、インフレ率が持続的に2%に向かって低下し続け、経済がほぼ完全雇用に近い状態が続くと予想される場合、時間をかけてより中立的な政策スタンスへと徐々に移行することが適切である可能性が高いと予測した。参加メンバーは、金融政策の決定はあらかじめ定められたコースに沿ったものではなく、経済の推移と経済見通しおよびリスクのバランスへの影響を条件とするものであると指摘し、金融政策スタンスを調整するにあたり、当委員会がこの点を明確にすることが重要であると強調した。多くの参加メンバーは、金融政策はデータに依存するものであると強調しながらも、最近の経済データの変動性を指摘し、入手する情報を評価する際には、経済の基調と見通しの推移に焦点を当てることの重要性を強調した。一部の参加メンバーは、今後の会合において、ON RRP(翌日ものリバースレポ)の金利をFF金利の目標金利レンジの下限に等しくなるよう技術的な調整を当委員会が検討することには価値があるとし、それにより、金利を金融政策の手段としてこの制度が創設された当初の水準に戻すことができると述べた。

 金融政策の見通しに影響を与える可能性のあるリスク管理について議論する中で、ほぼすべての参加メンバーが、当委員会の雇用およびインフレ目標の達成に対するリスクは概ね均衡しているとの見解で一致した。一部の参加メンバーは、経済活動や労働市場の下振れリスクは減少したと判断した。参加メンバーは、金融政策は、緩和策が早過ぎてインフレのさらなる進展を妨げるリスクと、緩和策が遅過ぎて経済活動や雇用が過度に弱体化するリスクとのバランスを取る必要があると指摘した。リスクのバランスが変化した場合の金融政策の位置づけについて議論する中で、一部の参加メンバーは、インフレ率が高止まりする場合には、当委員会は政策金利の引き下げを一時停止し、引締め状態を維持することも可能であると指摘した。また、労働市場が悪化したり、経済活動が低迷したりした場合には、金融緩和を加速させることも可能であるとの意見もあった。多くの参加メンバーは、中立金利水準に関する不確実性が金融引締め状態の度合いの評価を複雑にしていると指摘したが、彼らの見解では、金融引締め状態を徐々に緩和することが適切であると述べた。

(H・N)

[ゴールデンチャート社]

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FOMC議事録(原文、FRB)