外国人労働者、拡大か制限か=参院選争点に、排外主義懸念も―「深掘り・日本の課題」【25参院選】 2025年07月10日

日本で暮らす外国人は2024年末に370万人を超え、過去最多を更新した。少子化に伴う人手不足の深刻化を踏まえ、政府が外国人労働者の受け入れを拡大したことが背景にある。一方、一部の外国人による犯罪や迷惑行為が社会問題化しており、受け入れ拡大を続けるのか制限に転じるのかが、20日投開票の参院選の争点に浮上した。
◇政府、選挙戦中に新組織
石破茂首相(自民党総裁)は8日の閣僚懇談会で、外国人政策の司令塔となる事務局を来週初めに内閣官房に設置すると表明。「秩序ある共生社会の実現に向け、施策を総合的に推進する」と語った。政府が国政選挙のさなかに新組織を立ち上げるのは異例で、外国人政策に取り組む姿勢を有権者にアピールする思惑があるのは明らかだ。
日本の生産年齢人口(15~64歳)は1995年の8726万人をピークに減少を続けている。危機感を強めた政府は2019年、外国人労働者の受け入れ拡大にかじを切り、新在留資格「特定技能」を導入。27年には従来の「技能実習」に代わる「育成就労」を新たにスタートさせる。
こうした流れを受け、外国人労働者は急増しており、24年に230万人を超えた。政府は今後も受け入れを拡大する方針で、外国人は67年に総人口の10%を超えると推計されている。一方で外国人が絡んだ事件・事故に加え、社会保障制度が不適切に利用される例も報告されるようになった。
◇各党こぞって
参院選真っただ中の新組織発足の背景にあるのは、保守層を切り崩されかねないとの首相の危機感だ。参政党は「日本人ファースト」を掲げ、6月の東京都議選で躍進。参院選でも「行き過ぎた外国人受け入れに反対」と主張し、非熟練労働者の受け入れ制限などを掲げる。
自民もこれに対抗し、「違法外国人ゼロ」を公約。「国民の不安」を意識し、外国免許切り替え制度の審査厳格化などを打ち出した。公明党も「不法滞在者ゼロプラン」の推進などを約束し、自民と歩調を合わせた。
他党も外国人政策をこぞって掲げる。日本維新の会は公約に「外国人比率の上昇抑制や受け入れ総量規制」を明記。れいわ新選組は「移民政策に反対する」、日本保守党は「野放図な移民政策を是正する」とうたった。
一方、立憲民主、共産、社民各党は、外国人労働者受け入れを前提に、共生社会の実現に力点を置く。立民は「多文化共生社会基本法の制定」を約束。共産は「排外主義を許さない」と強調し、社民は「移民、難民を排除しない」と記した。
一部の主張には識者から「欧米諸国で台頭する排外主義が日本にも広がり始めた」と懸念する声が上がっている。国民民主党はこうした声を踏まえ、「外国人に対する過度な優遇を見直す」としていた当初の公約を「外国人に対して適用される諸制度の運用の適正化を行う」と軌道修正した。
◇外国人政策巡り国民的議論を=識者談話
永吉希久子・東大教授(社会学)の話 外国人労働者の受け入れをなし崩しに進めず、国民的な議論を行うことは重要だ。その際、感情に訴えるのではなく、客観的なデータに基づいて冷静に議論する必要がある。
データを分析すると、外国人の犯罪率は近年むしろ低下傾向にある。例外的な事例が過度に大きく取り上げられ、全体の議論を左右するのは望ましくない。
外国人労働者の受け入れを拡大するにせよ、制限するにせよ、痛みが伴う。そこから目をそらさずに議論すべきだ。受け入れる場合には日本語教育などの社会的コストが発生する。一定規模を超えれば、地域社会で摩擦が生じる可能性もあり、そうした負担への対処を具体的に検討する必要がある。一方、受け入れを抑制するのであれば、深刻化する人手不足にどう対応し、限られた資源で社会をどう維持していくのか、明確にする必要があるだろう。
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