所得減税、規模・財源が焦点=消費下支えへ給付とセット―岸田政権 2023年10月20日

 岸田文雄首相は20日、所得税の減税を念頭に「国民への還元策」について検討するよう自民、公明両党に指示した。賃金の上昇が物価高に追い付かない状況が続いており、消費の下支えにつながる規模の減税を打ち出せるかがポイント。政府が近くまとめる経済対策では、減税の恩恵が限定的な低所得者への給付措置との組み合わせも課題で、財政状況が厳しい中で財源確保は難航しそうだ。
 与党の税制調査会が今後、減税の手法や期間、財源の検討を政府と本格化させる。鈴木俊一財務相は20日の閣議後記者会見で、所得税減税の具体策について、「制度の仕組み方によって家計や財政への影響は変わってくる」と述べ、効果的な政策を目指して検討する考えを示した。
 所得税の減税方法としては、一律の金額を差し引く「定額減税」や一定の割合を控除する「定率減税」などが想定される。過去には年間数兆円規模の所得減税が実施されており、今回も実現すれば「数兆円は下らない」(財務省幹部)規模になる見込みだ。
 山一証券の破綻やアジア通貨危機に見舞われた1997年、橋本龍太郎首相(当時)は特別減税の検討を指示。98年分の所得税から本人は1万8000円、扶養家族は1人当たり9000円を差し引く「定額減税」を実施した。追加分も含めると、減税規模は約4兆円に上った。
 小渕政権は99年、25万円を上限に所得税額の20%相当を控除する「定率減税」に踏み切った。定率減税は控除率の縮減を経て、2006年末まで続いた。
 所得税の減税には法改正が必要で時間がかかる上、低所得者層に恩恵が届きにくい場合もあるため、給付措置とセットでの実施が濃厚だ。給付対象は住民税の非課税世帯が軸となりそうだが、厚生労働省によると、住民税非課税世帯の約8割を60歳以上が占め、現役世代のメリットが小さいとの見方もある。
 野村総合研究所の木内登英エグゼクティブ・エコノミストは所得減税に関し、「経済効果は限定的だ」と分析した上で、「財政負担の方が大きく、費用対効果は良くない」と指摘する。
 年末の税制改正論議では、防衛費の増額分に充てる増税の実施時期も議論する見通し。防衛増税の中には、復興特別所得税を転用する形で所得税の増税も含まれており、岸田政権が狙う「減税路線」との整合性も問われる。 

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