異例の緩和正常化、賃上げ焦点=来年春にも判断―植田日銀総裁、就任半年 2023年10月08日

 日銀総裁に経済学者出身の植田和男氏が就任して9日で半年。米欧が金融引き締めに動く一方、日銀はマイナス金利政策に代表される異例の緩和策を堅持する。ただ、原油高や円安進行で物価は高止まりし、家計や企業に重くのしかかる。緩和正常化に踏み切れるかは来年の春闘での賃上げ動向が焦点だ。賃金と物価がともに上昇する好循環に向け難しいかじ取りを迫られる。
 「簡単な目標ではない。有限の時間内に達成する強い見通しは現時点で申し上げられない」。植田総裁は4月の就任記者会見で、2%の物価上昇目標の実現は見通せないとして、黒田東彦前総裁の大規模緩和策を継続する考えを強調した。市場関係者らは植田総裁は早期正常化に慎重だとの印象を深めた。
 植田総裁にとって想定外だったのは物価の上振れだ。日銀は、原材料価格の高騰など供給要因による物価高は一時的と見込んでいたが、食料品を中心とした値上げが活発化。全国消費者物価指数は前年同月比3%超の伸びが続くなど、日銀が目標に掲げる2%を上回って推移している。
 日銀は7月の金融政策決定会合で、2023年度の物価見通しを大幅に上方修正するとともに、長期金利の変動許容幅の上限を事実上1%に引き上げる政策修正を決定した。植田総裁は会合後の会見で、物価の基調について「やや過小評価していた」と釈明した。
 日銀内でも物価について強気な見方に傾き始めた。9月の会合では、政策委員の一人が「2%の物価上昇の実現が来年1~3月ごろには見極められる可能性がある」と主張した。来年の春闘で高い賃上げ率を見通せる状況になれば、緩和正常化を判断できる環境が整いそうだ。
 日銀幹部は「欧米のようなインフレ高進も避けたいし、デフレ再燃の失敗もしたくない」と胸の内を明かした。植田日銀は来春にかけ正念場を迎える。 

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金融政策決定会合を終え、記者会見する日銀の植田和男総裁=9月22日、日銀本店
金融政策決定会合を終え、記者会見する日銀の植田和男総裁=9月22日、日銀本店

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