「脱依存」道半ば=原油価格、国際社会を翻弄―石油危機から50年 2023年10月05日

 【ロンドン時事】第1次石油危機のきっかけとなった第4次中東戦争の勃発から6日で50年。当時、中東産油国による原油の供給制限や大幅値上げで世界経済は大混乱に陥ったが、その反省から日本を含む消費国は「脱石油依存」に取り組み、エネルギー源の多様化などで一定の成果を挙げた。ただ、コロナ禍による需要急減で史上初のマイナス価格に沈んだかと思えば、ロシアのウクライナ侵攻を受けて再び高騰するなど、不安定な原油相場に国際社会が翻弄(ほんろう)される構図は今も変わっていない。
 1973年10月6日、エジプトとシリアがシナイ半島などの奪還を目指し、イスラエル軍を奇襲攻撃したことで第4次中東戦争が始まった。石油輸出国機構(OPEC)に加盟するサウジアラビアやイランなどの産油国は、イスラエルを支援する国々への石油禁輸や大幅値上げを断行。世界経済はインフレ、景気後退、国際収支の赤字という「トリレンマ(三重苦)」に見舞われた。
 79年には、イラン革命による混乱を機に第2次石油危機が発生。資源ナショナリズムの高まりから、原油の価格決定権は産油国の手に移り、米エクソン(現エクソンモービル)や英ブリティッシュ・ペトロリアム(現BP)など、世界の石油資源を独占してきた欧米の国際石油資本(メジャー)の支配力は急低下した。
 これを教訓として、エネルギーの多くを中東地域に頼ってきた先進国は、依存度を減らす動きを加速。技術革新も進め、米国は「シェール革命」で世界最大の原油生産国となった。エネルギー安全保障の強化に向け、天然ガスや原子力、再生可能エネルギーへの分散にも取り組んだ結果、資源エネルギー庁の統計によると、世界のエネルギー消費量のうち石油が占める比率は、73年の48.7%から2020年には31.2%に低下した。
 一方、中国やインドなど新興国のエネルギー需要の拡大に伴い、世界の石油消費量は増大。11年の東京電力福島第1原発事故以降、日本や欧州で脱原発の動きが活発化したことや、自然条件に左右される太陽光や風力の利用が伸び悩んでいることも石油需要を押し上げている。
 「石器時代は石が無くなったから終わったのではない。石油の時代は世界が石油を使い果たすはるか前に終わる」。70年代を中心に活躍したサウジ元石油鉱物資源相の故アハマド・ザキ・ヤマニ氏は脱炭素社会の到来を予言した。ただ、昨年来のウクライナ危機でロシアからの資源供給が滞ると、世界が依然として中東産石油に頼らざるを得ない現状が浮き彫りとなった。石油危機から半世紀を経ても、石油の時代の終わりはまだ見えない。 

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石油輸出国機構(OPEC)と欧米石油企業の交渉に参加するサウジアラビアのヤマニ石油鉱物資源相(当時、中列左から2番目)ら=1973年10月、ウィーン(AFP時事)
石油輸出国機構(OPEC)と欧米石油企業の交渉に参加するサウジアラビアのヤマニ石油鉱物資源相(当時、中列左から2番目)ら=1973年10月、ウィーン(AFP時事)

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