高齢者の資産活用議論を=フィンウェル研究所代表の野尻哲史氏―資産形成・インタビュー 2023年01月03日

 ―政府の資産所得倍増プランの実現性は。
 少額投資非課税制度(NISA)の投資額を5年で倍増する目標は達成する可能性がある。2023年度与党税制改正大綱に盛り込まれたNISA恒久化などで制度の使い勝手が向上し、英国を参考に導入した当時に求めていた姿にかなり近づいたからだ。ただ、課題はまだある。
 ―どんな課題か。
 投資額より資産残高を増やすことが重要だ。22年6月までのNISAの買い付け総額は約28兆円だが、21年末時点の残高は約12兆円。このギャップは投資が増える一方で、売却も多いことを示している。高齢化が進む中、残高の倍増を目標にすべきだ。
 ―売却が多い背景は。
 現行のNISAには期限があり、株価が上がると売却したくなる人は少なくない。制度が恒久化されることで、安心して長期に投資する人が増えると期待する。専門的なアドバイザーもいれば相場の変動時に慌てず、積み立てを続けられる。
 ―今後、顧客をサポートする「認定アドバイザー」が導入される予定だ。
 顧客の立場に立った金融関連の助言が求められる時代に、中立的な機関が認定するアドバイザーの導入機運が高まった。若年層がNISAを始めやすいように助言する役割が求められる。
 ―現役世代の資産形成に加え、高齢者の資産活用の重要性を訴えている。
 資産活用は、保有資産を退職後にどう取り崩していくかという極めて重要な課題だが、注目されず、制度も整っていない。積み立ててきた確定拠出年金(DC)などを多くの人が退職時に現金化している。これを有価証券の口座にそのまま切り替えた上で、少しずつ活用できる方法を真剣に議論していかなければならない。
 

◇野尻哲史氏
 野尻 哲史氏(のじり・さとし)一橋大商卒。山一証券経済研究所アナリスト、フィデリティ退職・投資教育研究所所長などを経て19年にフィンウェル研究所代表。金融審議会顧客本位タスクフォースメンバー。資産形成に関する著書多数。岐阜県出身。63歳。 

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インタビューに答えるフィンウェル研究所の野尻哲史代表=12月14日、東京都新宿区
インタビューに答えるフィンウェル研究所の野尻哲史代表=12月14日、東京都新宿区

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