雇調金特例「出口」模索=コロナ下、累計支給額5.8兆円―財源枯渇、転職の動き妨げも 2022年06月20日

 新型コロナウイルスの感染拡大下で雇用を維持するために導入された雇用調整助成金(雇調金)の特例措置が長期化し、政府が「出口戦略」を模索している。欧米に比べて失業率を低く抑える効果があった一方、その分支給額が膨らんで財源の枯渇は深刻だ。転職意欲をそぎ、人手不足に悩む業界や中小企業に人材が移動しない一因にもなっていると、特例の見直しを求める声が上がっている。
 厚生労働省は20日、今月17日までの支給決定額が2020年春の特例開始から累計で5兆8159億円に達したと発表した。雇調金は、業績が悪化した時などにも従業員を解雇せず、休ませた企業に休業手当の一部を支給する制度。現在は、特例として上限額を1人当たり日額1万5000円、助成率を最大100%に引き上げている。
 これらの雇用維持策により、日本の失業率は悪くても3%台前半にとどまった。その一方で、雇用保険全体で約6兆円あった積立金はほぼ枯渇。一般会計からの投入に加え、今年度の雇用保険料率を引き上げるなどして対応している。
 政府は9月末まで特例措置を延長する方針を決めたが、財源不足を背景に厚労省内などでは「いつまでも続けるわけにはいかない」(幹部)との意見が大勢。今秋以降、助成率の引き下げも視野に「正常化」へかじを切りたい考えだ。
 支給額が膨らんだ裏返しで、休業者は20年平均で256万人と、比較可能な1968年以降で最多を記録した。21年平均も206万人に上った。厚労省幹部は「労働者がスキルアップする機会を奪っている可能性がある」と危惧する。
 今年4月の有効求人倍率は4カ月連続で改善し、失業率はコロナの影響が本格化する前の水準を取り戻した。製造業の新規求人数が14カ月連続で前年同月を上回るなど、幅広い産業で人手不足感が強まっている。
 雇用情勢の回復とともに、これまで雇調金の特例延長を訴えてきた中小企業団体も政策の転換を求め始めた。日本商工会議所の関係者は、人手不足が中小企業の経営に影を落としているとして、「雇用維持も重要だが、人手不足や成長産業への円滑な労働移動に向けた施策も推進してほしい」と漏らす。
 労働経済学が専門の酒井正法政大教授は、「雇調金自体に雇用を回復させる力はない。出口戦略が必要な時期に来ている」と指摘する。 

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厚生労働省が入る中央合同庁舎第5号館
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