混迷のインド太平洋経済圏=「脱中国」は薄氷の結束―米大統領来日 2022年05月24日

 バイデン米大統領は新たな経済圏構想「インド太平洋経済枠組み(IPEF)」の発足を東京で宣言した。日本の水面下での説得が奏功し、新興大国インドや東南アジア諸国など計13カ国が参加を決めたが、米国の指導力に対する期待と不安が入り交じっている。世界経済の「脱中国依存」を進めたい米国の思惑が先行する中、辛うじて協調を演出してみせた薄氷の結束に懸念は拭えない。
 「21世紀の競争に勝ち抜く」。バイデン氏は23日のIPEF発足式で、台頭する中国に打ち勝つ決意を表明した。13カ国の国内総生産(GDP)は世界全体の約4割。アジア15カ国が参加する地域的な包括的経済連携(RCEP)の約3割、米国離脱後の11カ国による環太平洋連携協定(TPP)の1割強を上回る。
 参加国集めに奔走したのが日本だ。東南アジア諸国連合(ASEAN)ではIPEFに米国が関税を引き下げる市場開放が含まれないことへの不満が強く、岸田文雄首相は大型連休中のアジア歴訪で各国を説得。インドの参加決定が契機となり、ASEAN10カ国のうち7カ国の取り込みに成功した。
 これら7カ国は、TPPに加入済みのシンガポール、マレーシア、ベトナム、ブルネイと、加入を検討するインドネシア、タイ、フィリピン。ASEANのIPEFへの本気度は「米国がTPPに戻るかどうかがカギを握る」(日本政府筋)だけに、アジア諸国をつなぎ留める市場開放に代わるアメが不可欠との指摘は多い。
 一方、インドを含めIPEF参加国の大半は中国が最大の貿易相手国。インドは中国の影響力が大きいRCEPへの参加交渉から離脱。日米豪印4カ国「クアッド」でも中国をけん制しているが、対中貿易に依存する立場から露骨な中国批判は控えている。米中の二者択一を迫られれば、IPEFに距離を置く可能性もある。
 IPEFには経済安全保障の観点で戦略物資のサプライチェーン(供給網)を再編し、中国への過度な依存から脱却を図る狙いがある。しかし、中国に近いASEANに配慮し、世界的な半導体製造拠点である台湾の参加は見送られた。経済覇権をめぐる米中の綱引きも絡み、インド太平洋地域の通商外交は一段と複雑さを増すことになる。 

特集、解説記事