アジアに経済安保の新ルール=苦心の「脱中国」―米主導IPEF 2022年05月18日

 【ワシントン時事】バイデン米大統領は20日からの韓国、日本歴訪に合わせ、米国主導の経済圏構想「インド太平洋経済枠組み(IPEF)」の発足を表明する。経済安全保障の観点で中国への過度な依存から脱却するため、民主主義の価値観を共有する日韓などと共に貿易・投資上の共通ルール設定を目指す。ただ、米国でのビジネス拡大を期待する東南アジア諸国にとってはメリットに乏しく、新たな経済圏構築は前途多難だ。
 「米国は今後数十年にわたりインド太平洋地域に焦点を当てる必要がある」。レモンド米商務長官は17日、バイデン氏が大統領就任後初めて訪問する日本でIPEFの発足を宣言し、環太平洋連携協定(TPP)からの離脱で低下した米国の求心力を早期に回復させると強調した。
 インド太平洋地域にはTPPのほか、今年1月に発効した日中韓など15カ国による地域的な包括的経済連携(RCEP)といった大型自由貿易協定(FTA)が複数存在するが、いずれも「米国抜き」の枠組みだ。中国はその空白を突く形でTPPへの加入を申請し、域内貿易の主導権を握るため先手を打った。
 IPEFは(1)貿易(2)サプライチェーン(供給網)(3)インフラ・脱炭素(4)税・反汚職―の4本柱で構成される。従来のFTAのように参加国が互いに関税を引き下げる市場開放には踏み込まない。米国は日韓のほか、オーストラリア、ニュージーランド、シンガポールなどの参加を見込む。
 ただ、米国の市場開放を通じて輸出を拡大したい東南アジア諸国の一部は参加に慎重だ。IPEFは議会承認の要らない政府間合意であり、法的拘束力はなく、米国の政権交代で頓挫するリスクもある。米戦略国際問題研究所(CSIS)のマイケル・グリーン上級副所長は「説得力に欠ける枠組みだ」と分析する。
 米国が中国に対抗する経済圏構築を急ぐ背景には、ロシアによるウクライナ侵攻が台湾有事に波及することへの強い懸念もある。新型コロナウイルス禍で半導体や医療物資を囲い込んだ中国への依存を減らして調達先の分散を図る。米国はアジア太平洋経済協力会議(APEC)議長国を務める来年末までにIPEFのルールを固めたい意向だ。 

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バイデン米大統領=10日、ワシントン(AFP時事)
バイデン米大統領=10日、ワシントン(AFP時事)

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