買い支え、場当たり対応発端=「不審な取引」指摘も止まらず―SMBC日興相場操縦 2022年04月13日

 SMBC日興証券による相場操縦事件の捜査は、副社長執行役員だった佐藤俊弘容疑者(59)の起訴で区切りを迎えた。計10銘柄に及んだ自社資金での買い支えは、エリート幹部が主導して場当たり的に始まった。内部で「不審な取引」との指摘を受けても是正されず、多数の幹部らを巻き込んでいった。
 複数の関係者によると、一連の取引の中心人物とされるのが、外資系証券会社から招かれ、自己売買部門を担当するエクイティ部長だった山田誠被告(44)。
 「株価がかなり下がっている。(自社資金で)買おう」。2019年12月、市場外で大株主から買った株を投資家に転売する「ブロックオファー」取引の対象だった小糸製作所株が下落し、同取引の担当部長だった岡崎真一郎被告(56)らと急きょ協議。市場が閉まる直前に32万株もの買い注文を入れたのが発端だった。
 ある捜査幹部は「その場の成り行きで始まった」と言う。自社資金での買い支えは同業他社で禁じられた行為だが、21年4月までに計10銘柄で行われ、副社長だった佐藤容疑者、山田被告の上司だったヒル・トレボー・アロン被告(51)ら少なくとも計8人が関与する異常な事態へと発展した。
 この間、社内で監視・審査を行う売買管理部が「不審な取引」として山田被告に指摘したこともあったが、聞き入れられなかった。法令順守の機能不全に、ある大手証券の担当者は「(会社が)把握しながら是正されないのはあり得ない」とにべもない。
 SMBC日興の関係者は「過去、自己売買部門は脆弱(ぜいじゃく)で、他社と比べて雲泥の差だった」と語る。てこ入れで招かれたのがヒル、山田両被告ら外資系出身者で、実績に応じた報酬が約束された。100億円前後で推移していたトレーディング収益は、21年3月期に773億円を記録した。
 この関係者は「他社に追い付け、追い越せでリスクを背負っていたのでは」と指摘するが、事情を知る別の関係者は「エース級の社員は役員でも止められない」と明かした。 

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