空前の円高が日銀翻弄=緩和強化も75円32銭の戦後最高値―11年下期の決定会合議事録 2022年01月31日

 日銀は31日、2011年下半期に開いた金融政策決定会合の議事録を公表した。3月の東日本大震災から復興に向かう日本経済が空前の円高に見舞われた時期で、円相場は10月末に1ドル=75円32銭と戦後最高値を更新。景気は「震災による供給面の制約が和らぐ中で持ち直している」(白川方明総裁=肩書は当時、以下同=)と緩やかな回復経路を展望していた日銀は円高に翻弄(ほんろう)され、金融緩和の強化で後手に回った。
 「雇用面で大きな比重を占め、裾野の広い輸出産業に打撃が大きい」(西村清彦副総裁)。円が7月12日に79円台に上昇して以降、歴史的高値で推移する中で迎えた8月の決定会合。4、5両日の開催予定だったが、一方的な円高を阻止するため政府・日銀は4日朝から円売り・ドル買い介入に踏み切っていた。
 日銀は、企業心理がこれ以上悪化すると、産業空洞化や雇用の喪失が避けられず、震災復興にも影響を及ぼしかねないと懸念。日程を4日のみに短縮し、金融資産の買い入れ基金を10兆円増額する金融緩和を即日決定した。
 それでも、円高は続いた。欧州債務問題や米国経済の減速を背景に市場でリスク回避姿勢が一段と強まったためで、投機資金は安全資産と見なされる円買いに向かった。
 10月27日の会合では、欧州債務問題の深刻化が世界的金融危機や単一通貨ユーロの崩壊へ発展するケースなど「テールリスク(確率は低いが起こると影響が大きい危険)の可能性もゼロではない」(山口広秀副総裁)と危機感が強まった。白川氏は「一段と金融緩和を強化することが必要だ」と強調、日銀は買い入れ基金を5兆円増額する追加緩和を決めた。
 このとき、宮尾龍蔵審議委員は「より強い景気の下振れリスクを意識している」とインパクトのある10兆円の増額を提案したが、「企業の資金調達は基本的には円滑に行われている」(白川氏)として、反対8、賛成1の反対多数で否決された。
 しかし、市場は5兆円を不十分と見なし、円は10月31日に戦後最高値を記録。政府・日銀はこの日、1日間では過去最大となる8兆円超の円売り・ドル買い介入を日本単独で実施し、11月4日まで介入を続けた。
 日銀は半年分の議事録を10年後に公表している。 

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記者の質問に答える日本銀行の白川方明総裁(当時)=2011年10月27日、日銀本店
記者の質問に答える日本銀行の白川方明総裁(当時)=2011年10月27日、日銀本店

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