気候危機に動けぬ米国=分断深めた「脱炭素」―バイデン政権1年 2022年01月18日

 【ワシントン時事】昨年1月に就任したバイデン米大統領は、気候変動危機への対応を優先課題に掲げ、政策転換を図った。トランプ前政権下で離脱した温暖化対策の国際枠組み「パリ協定」に復帰。国際指導力を演出したが、米国内では温暖化対策を盛り込んだ看板法案の実現が危ぶまれる。性急な「脱炭素」の取り組みが社会の分断を深めている側面もあり、米国の団結を呼び掛けたバイデン氏の求心力に陰りが見える。
 ◇国内では対策に暗雲
 「世界を主導して温室効果ガス排出国・地域に対策を促す」。昨年4月、バイデン氏は40カ国・地域首脳による「気候変動サミット」を主催。対外交渉を率いる大統領特使にケリー元国務長官を起用し、国際協調の再始動に道筋を付けた。米国自ら厳しい温室ガス削減目標を設定。国連気候変動枠組み条約第26回締約国会議(COP26)では、最大排出国である中国に対策強化を促す「米中共同宣言」にこぎ着けた。
 一方、米国内では政権の温暖化対策に暗雲が広がる。1兆7500億ドル(約200兆円)規模の巨額歳出法案に与党民主党のマンチン上院議員が造反。政権は中国が先行する電気自動車(EV)分野で巻き返しを図る青写真を描くが、石炭の産地ウェストバージニア州選出のマンチン氏は再生可能エネルギーへの移行に慎重姿勢を崩していない。
 議会承認を必要としない大統領令で環境保護にかじを切る手法も波紋を呼んだ。温暖化対策に消極的なトランプ前政権が緩和や廃止を決めた環境規制は100件超。ワシントン・ポスト紙によると、このうち64件をバイデン氏は覆したが、雇用を守る立場から国内各地で反対訴訟も起こされている。
 ◇原油高で「矛盾」も
 新型コロナウイルス禍からの景気回復に伴う原油高は、石油産業への投資を縮小する脱炭素政策の副作用とも言える。「産油国や大企業が原油供給量を増やしていない」(バイデン氏)。今秋の米中間選挙を前に原油高が一大争点に浮上しており、政権は価格抑制を狙って日本などと石油国家備蓄の協調放出を打ち出した。だが、脱炭素の旗振り役の米国が原油増産を求めるという「矛盾」も露呈し、産油国と消費国の亀裂は深まった。
 気候変動危機への対応は待ったなしだ。世界気象機関(WMO)によると、世界の気象災害は過去50年間で5倍に増えた。バイデン氏が看板政策を実現できなければ、米国の温室ガス削減目標も「空手形」となりかねない。環境活動家としてノーベル平和賞を受賞したゴア元米副大統領はツイッターで「米国の国際指導力に傷が付く」と強い懸念を示した。 

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演説するバイデン米大統領=2021年12月、米ミズーリ州カンザスシティー(EPA時事)
演説するバイデン米大統領=2021年12月、米ミズーリ州カンザスシティー(EPA時事)

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