国境対立、詐欺問題に飛び火=タイがカンボジアへ圧力―最高権力者側近に逮捕状 2025年07月20日 05時17分

【バンコク時事】未画定の国境地域を巡るタイとカンボジアの対立が、東南アジアを舞台に日本でも被害が出ている国際的な特殊詐欺問題に「飛び火」している。両国関係の悪化を背景に、タイ政府は犯罪組織との癒着疑惑が指摘されるカンボジア政界への圧力を強めている。
タイとカンボジアの両軍は5月、国境未画定地域で銃撃戦を繰り広げ、カンボジア兵1人が死亡した。両国は国境検問所での人の往来や物流を制限。カンボジア側は事実上の最高権力者であるフン・セン上院議長とタイのペートンタン首相が電話した際の録音内容を流出させ、会話中の不用意な発言が自国内で批判を浴びたペートンタン氏は、職務の一時停止に追い込まれた。
両国関係が険悪化する中、タイ警察は7月、フン・セン氏の側近とされる実業家コック・アン氏と子どもらについて、国際的な特殊詐欺などに関与した疑いで逮捕状を取得。タイ国内の関係先を家宅捜索して11億バーツ(約50億円)以上の資産を押収し、国際手配に向けた手続きも進めている。
コック・アン氏はタイと国境を接するカンボジア北西部ポイペトなどでカジノやビルを所有しており、タイ警察はその一部を詐欺拠点と見なしている。タイ政府報道官は「カンボジアには大規模な『詐欺産業』がある。各国と連携して撲滅を目指す」と強調。日米中が参加した7月の東南アジア諸国連合(ASEAN)関連会合でも、マーリット外相が詐欺問題を取り上げた。
国際人権団体アムネスティ・インターナショナルが6月に公表した報告書などによると、カンボジアにはポイペトや南西部シアヌークビルなどに少なくとも53の犯罪拠点が存在。詐欺に従事するのは主に外国人で、ポイペトでは多数の日本人が拘束された。実行役にはだまされて連行され暴力を受けた人もおり、報告書は「カンボジア政府は適切な対策を講じていない」と批判した。
タイ政府の対応について、フン・セン氏は「犯罪組織の首謀者はタイにいて、犯罪網がカンボジアまで拡大した」と反論。同氏の息子のフン・マネット首相は7月、特殊詐欺拠点の一掃を関係機関に指示して各地で摘発が行われているが、政界との癒着疑惑にまで踏み込むかは不透明だ。