脱走兵、戦闘加担「恥じている」=敵味方混在する避難民の街―スーダン「忘れられた紛争」 2024年12月30日 14時22分

エジプトに避難したスーダンの準軍事組織「即応支援部隊(RSF)」出身のムスタファさん(右)と正規軍の一員だったムーサさん(右から2人目)=11月18日、カイロ近郊ギザ
エジプトに避難したスーダンの準軍事組織「即応支援部隊(RSF)」出身のムスタファさん(右)と正規軍の一員だったムーサさん(右から2人目)=11月18日、カイロ近郊ギザ

 アフリカ北東部スーダンでは、2023年4月に始まった正規軍と準軍事組織「即応支援部隊(RSF)」の戦闘が、今も続いている。1200万人以上が避難民として国内外へ逃れたが、国際社会からの関心は低い「忘れられた紛争」。避難民の多くがたどり着いた隣国エジプトでは、軍とRSFの出身者が同じ街に身を寄せる。取材に応じた双方の脱走兵は、「目的のない戦争」に加担したことを「恥じている」と語った。
 ◇なぜ国民同士が
 首都カイロ近郊のギザ。避難民の街は、車の排ガスと土ぼこりでかすんで見えた。コーヒー店に現れたムーサさん(36)は、13年前に正規軍へ入隊。兵たん任務に就いていたが、派遣先での戦闘を機に、妻と幼い娘2人を残しエジプトに渡った。家族を呼び寄せるため市場で働いているが、めどは立っていない。
 スーダンの紛争勃発から間もない頃、ムーサさんが訪れた首都ハルツームの病院では、軍とRSFの負傷者が病床を並べていた。RSF所属の知人もいた。RSFの戦闘員は若く、まともな訓練も受けず戦場に駆り出されていた。
 ムーサさんは西部ダルフールで、RSFの戦闘員を多数殺害した。包囲を突破するため、装甲車からマシンガンを乱射。服が血で染まった。「国民を守りたくて軍に入った。なぜ国民同士が殺し合わなければならないのか」。戦う理由を見いだせず、軍を脱走。逮捕を恐れエジプトに出た。
 自分が殺した人の顔がよみがえる。「私は自分を許せない」とつぶやいた。
 ◇失われた規範
 「彼はRSFだ」と、ムーサさんがムスタファさん(34)を連れてきた。ダルフール出身のムスタファさんはハルツームの高校を出た後、理容師などの職を経て、14年にRSFへ入隊した。給料が良かったからだ。
 衝突後のRSF戦闘員は3種類に分類できると、ムスタファさんは話す。薬物依存症の者、教育を受けていない者、そして教育を受けた者だ。特に前の2者が規範を失い、残虐性を増した。占拠した地域の武器や金品、女性は「戦利品」として収奪可能との「ルール」が生まれ、外国人傭兵(ようへい)もそれに加わった。
 ムスタファさんには忘れられない体験がある。ハルツームで部隊が休憩中、コーヒー店から口論が聞こえてきた。「理由もなく人を殺すな」と、誰かが薬物依存症の男に注意したらしい。銃声が続いた。「何が起きたのか、信じられなかった。男は店内の全員を殺したんだ」。民間人を含め、約20人が死亡した。
 自分も殺される未来が見えた。その3カ月後に出国。妊娠中の妻は、出産までスーダンに残ると決断した。
 ◇「勝手に戦え」
 加害者と被害者が混在するエジプトで、避難民は自身の素性について多くを語らない。それでも「関係者」にはそれと分かる。2人はコーヒー店で親交を深めた。「スーダンで会っていたら、殺し合っていた」とムーサさんは語る。紛争は正規軍とRSFの指導者による権力闘争の側面がある。「リーダー同士、街の外で勝手に戦え」と2人は言い放った。 

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