高まるフィンランドの防衛意識=「包括的安保」、生活に浸透―隣国ロシアの脅威に備え 2024年12月22日 06時20分
ロシアと1300キロ以上の国境を接するフィンランドで、あらゆる脅威への防衛意識が高まっている。2022年のロシアによるウクライナ侵攻開始後、それまでの軍事的中立政策を転換し北大西洋条約機構(NATO)に加盟。国防省が今年公表した調査では、国民の82%が「国を守るために戦う意思がある」と回答し、任意の軍事訓練に参加する人も増加している。こうした高い防衛意識の背景には、長年にわたる「包括的安全保障」戦略がある。
◇申し込み5倍増
包括的安保戦略は、第2次大戦中の1939年に当時のソ連の侵攻を受けた「冬戦争」を教訓に、戦後まとめられた。社会機能の耐久性を高めることを礎とし、当局だけでなく経済界や各種団体、そして市民も、自然災害などを含むあらゆるリスクから社会を守るため、連携して対応すると規定。国民一人一人を安保の「アクター(行動主体)」と位置付ける。
国防省安保委員会のペッテリ・コルバラ事務局長は「例えば社会人として、父として、趣味のボランティアとして、それぞれ異なる社会的役割を果たすことで、市民は防衛に参加できる」と話す。その一環で、週末には、国防省の管轄下にある国防訓練協会(MPK)が市民に向けた訓練を各地で提供。年間で約2000のコースが用意され、原則として無料で参加できる。
コースにはサイバーセキュリティーに関する講習のほか、森林でのサバイバルスキルなど災害時に生かせるものも。22年のウクライナ侵攻開始後には申し込みがそれまでの約5倍に増え、定員オーバーが続いているという。フィンランド国防大のテイヤ・セーダーホルム非常勤教授は「余暇の趣味としても親しまれている」と指摘。訓練が生活に浸透していると説明する。
◇シェルター義務化
床面積が1200平方メートル以上の建物に設置が義務付けられた避難用シェルターも、戦略の象徴の一つだ。国全体で5万基超が整備され、国民の85%に当たる480万人を収容可能。有事の対応に当たる兵士らを除けば、全国民が避難できる計算になる。
首都ヘルシンキ中心部のメリハカ市民防衛シェルターは、核兵器を含む全ての攻撃を想定し、地下約30メートルに造られている。普段はスポーツ施設や駐車場として使われ、そうした施設の運営団体が維持管理を担当。ベッドや組み立て式のトイレなどを備え、有事の際には市民も設営や運用に携わることが義務付けられている。
◇欧州の戦略にも反映
ヘルシンキ市救助局のアンナ・レヘティランタ安全対策コミュニケーション部長は、シェルター運用の仕組みについて「NATOにも提案できる」と自信を示す。運用に携わるボランティア訓練も日常的に行われ、ウクライナ侵攻後はこうした訓練への参加も増加傾向にあるという。
ニーニスト前大統領は10月、欧州連合(EU)欧州委員会の依頼で「非軍事・軍事両面での準備強化」に関する報告書を提出した。包括的安保をモデルとするアプローチの必要性を訴えた報告書の内容は今後、欧州の防衛戦略に反映される見込み。ロシアの脅威に対する警戒が高まる中、フィンランドの防衛戦略は国際的な注目を集めそうだ。