科学から課題解決へ=分野融合で北極研究推進―みらいIIで空白域カバーも・第2部「蒼い北極」(8)完・〔66°33’N=北極が教えるみらい〕 2024年10月09日 07時16分
文部科学省は2011年以降、北極域の研究・観測プロジェクトを進めてきた。当初は、他地域の4倍の速度で進む温暖化メカニズムの解明など、自然科学分野が中心だった。しかし、北極域での気候変動と日本国内の異常気象の関連性が明らかになってきたことや、海氷融解により北極海航路の利用拡大が見込まれることなどから、気象予測や防災、さらには環境保護や資源探査の国際ルール形成など課題解決型へとシフトしてきた。
◇温暖化進展で注目
北極域の観測が本格化したのは、東西冷戦終結後の1990年代。国際北極科学委員会が設立され、国内でも国立極地研究所や現海洋研究開発機構が研究組織や観測拠点を設けた。98年には海洋機構の研究船「みらい」が運用を開始、自国船での観測が可能になった。
00年代に入ると、北極海の夏の海氷面積が過去最少を更新するなど、温暖化の影響に注目が集まった。日本の豪雪や寒波にも関連する可能性が示唆されるようになり、総合的な研究の必要性が高まった。
文科省は11年、300人以上の研究者が分野横断で取り組む「北極気候変動研究事業(GRENE)」をスタート。北極域で温暖化が早く進む「温暖化増幅」の仕組み解明や、日本や欧州などの異常気象との関連など、5年間で多くの成果が得られた。
◇分野融合で進展
16年からは、後継の「北極域研究推進プロジェクト」(ArCS)が開始され、人文・社会科学系の研究者も加わって気候変動が「人と社会」にもたらす影響も対象となった。極地研の榎本浩之副所長は「それまでの研究は『個人営業』だったが、GRENEでお互い違う分野を見られるメリットが生まれた」と強調。「人文・社会科学の研究者との対話も生まれ、彼らが必要な情報は何か、自然科学が出せる情報は何か、というやりとりができるようになった」と評価した。
20年からの北極域研究加速プロジェクト(ArCSII)では国際法の専門家も加わり、知見を国際的なルールづくりに生かす取り組みが進展。25年度から始まる次期プロジェクトでは、砕氷能力を持つ初の北極域研究船「みらいII」が加わり、これまで行けなかった海域や季節のデータを埋める観測が期待される。文科省の担当者は「気候変動の影響など、解決しなければいけない課題について、みらいIIで増えたデータを使って研究を進めていく」と話した。
▽ニュースワード「北極域研究加速プロジェクト(ArCSII)」
北極域研究加速プロジェクト(ArCSII) 文部科学省が2020年から5年計画で進める北極域の研究・観測プロジェクト。中心となるのは国立極地研究所、海洋研究開発機構、北海道大で、24年度予算は約8億円。北極の環境変化の実態把握強化や、気象予測の高度化、環境変化が社会に与える影響評価、得られた成果の政策的対応の四つの戦略目標と11の研究課題を掲げる。