中国研究者、中ロ連携「米欧に原因」=蜜月の中、潜む温度差―北極巡り日本と協力も―第1部「二つの北極」(5)〔66°33′N=北極が教えるみらい〕 2024年09月17日 07時30分
【北京時事】中国の習近平政権は2018年、初めて北極政策に関する白書を発表し、北極における経済・科学研究活動を戦略目標に組み込んだ。習政権の覇権主義的な動きや、ウクライナ侵攻を続けるロシアとの連携に対する国際社会の不信感は根強いが、中国の研究者は米欧にこそ「原因がある」と主張する。北極政策に詳しい上海国際問題研究院海洋・極地研究センターの張耀主任に話を聞いた。
習政権は自国を「近北極国」と位置付け、北極の気候変動対策や資源開発、航路開拓に関与する正当性を強調。張氏もまた「(米ロなど北極圏8カ国で構成する)北極評議会には日本やインドもオブザーバー参加しており、利害関係国である中国の関与は自然だ」と話す。
中国の最大の連携相手はロシアだ。習国家主席は17年、巨大経済圏構想「一帯一路」の一環として、北極での「氷上シルクロード」建設にロシアと共に取り組むと表明した。
陸・海路から成る一帯一路に北極海航路が加われば、ユーラシア大陸を取り囲む形で物流・インフラ網が構築される。安全保障の観点から警戒感を強める米欧を尻目に、習政権はロシアの北極圏でのエネルギー開発や施設整備に資金を投入。近年は米アラスカ州沖でロシア軍との哨戒活動を活発化させるなど、連携領域を広げている。
張氏はこうした現状に関し、ロシア以外の北極圏諸国が中国と距離を置くようになったことが背景にあると説明。フィンランドやノルウェー、アイスランドなどとの共同事業が停滞した結果、ロシアとの連携のみが進んだとの見方を示した。
ただ、中ロ間には温度差もある。米国への対抗上、ロシアと戦略的な「蜜月」を維持する習政権だが、ロシアと一蓮托生(いちれんたくしょう)となって米欧の制裁対象となる事態は避けたいのが本音。今年に入り、中国の銀行がロシアとの決済を相次いで停止する動きも報じられるなど、対ロ外交では微妙なかじ取りが求められている。
張氏はまた、13年に中国の北極評議会へのオブザーバー参加に熱心だった米国が、その後のトランプ政権で態度を硬化させたと指摘し、米側の「変節」を批判。「中国側から他国との協力を停止したことはない」と語気を強めた。トランプ政権は、中国がデンマーク領グリーンランドで計画していた空港拡張事業への参画を、デンマーク政府に圧力をかけ阻止した経緯がある。
張氏は11月の米大統領選後も対中姿勢の軟化は望めないとする一方、日本や韓国との連携には将来性があると語る。北極海航路の活用でアジアと欧州を結ぶルートが短縮されれば、日中韓3カ国が最も恩恵を受けるという見立てからだ。「中日間の政治的雰囲気は必ずしも良くないが、北極を巡っては利害対立がなく、資源の共同開発も期待できる」と強調した。