きしむウクライナ支援=穀物流入、農家が悲鳴―ポーランド 2024年06月01日 14時24分
ウクライナ西部と国境を接するポーランドの農家が、安価なウクライナ農産品の流入に悲鳴を上げている。ロシアのウクライナ侵攻を受け、欧州連合(EU)は2022年にウクライナ産の輸入関税を免除。だがこの経済支援策は、農家による国境封鎖など激しい抗議デモを招いた。
◇小麦価格が暴落
「国境を完全閉鎖するしかない」。広大な麦畑が広がるポーランド南東部フルビエシュフ。ウクライナとの国境近くで農業を営むマルチン・ビルゴスさん(40)は、ウクライナからトラックで運ばれてくる農産品の流入が止まらないことに怒りを隠さない。22年秋に国境付近でトラックの通行をトラクターで妨害する抗議を行った。
ロシアはウクライナ侵攻直後に黒海を支配し、ウクライナ産穀物の海上輸送ルートを封鎖した。これを受け、EUはウクライナ産品が周辺加盟国を通り域外に輸出されるよう陸送ルートを確保。ポーランドには大量の農産品が入ってきた。
ワルシャワの研究機関によると、ポーランドのウクライナ産小麦とトウモロコシの輸入量は21年はほぼゼロだったが、22年は270万トンに急増。国内小麦価格は「戦争前に1トン=1450ズロチ(約5万8000円)だったが、戦争後は600ズロチ(約2万4000円)に暴落した」(農家)という。
全国農民組合・農業組織連盟のビラディスワフ・セラフィン代表は、農家の経営悪化を招いたのは「ポーランドがウクライナ産品の中継地という前提だったのに(滞留により)消費国になったためだ」と、EUや政府の対応を批判する。
ウクライナ農産品はポーランドの約3倍もある農地で効率的に生産される。ポーランド農家が負担させられるEUの厳格な肥料規制などのコストは、非加盟国のウクライナには無関係だ。
黒海ルートが再開し、ポーランドに入るウクライナ産品は減ったものの、圧倒的な農業競争力を持つウクライナがEUに加盟すれば、勝ち目がないとの不安がポーランド農家を国境閉鎖抗議デモに駆り立てている。今年3月にはワルシャワでの大規模デモに発展。ロシアによる扇動を疑う見方もある。
◇「いつか」支援疲れ
EUは先に、ウクライナ産に対する輸入関税の一時免除措置を25年6月まで延長する一方、域内農家が打撃を受ける鶏肉や砂糖など、対象品目を広げて輸入急増時に緊急制限をかけられるようにした。農業規制も一部緩和し、農家に配慮した。
農家の収入を直撃した穀物価格の落ち込みは「ロシアの増産による国際相場の下落が主因」(ポーランド農業連盟のブロジャク会長)との分析もある。ポーランドのシェキェルスキ農業・農村開発相は「農家は抗議の理由を単純化している」として、農家による国境封鎖を認めない立場だ。
現在、農家の抗議活動は小康状態だ。ビルゴスさんは「今はウクライナへの『支援疲れ』という気持ちはないが、いつかは出てくる」と語る。EUやポーランド政府の対応は不十分だと感じており、農家は「6月に警告として何らかの行動を起こし、秋に大規模に行動する」とけん制している。