揺らぐ報道の自由=民主主義の行方に懸念―インド 2024年05月31日 14時27分

インドの調査報道記者アナンド・マングナレ氏(同氏提供・時事)
インドの調査報道記者アナンド・マングナレ氏(同氏提供・時事)

 【ニューデリー時事】インド総選挙は6月1日、投票最終日を迎える。2014年に成立したモディ政権下の10年で、民主主義の柱とされる報道の自由が損なわれたとの懸念が高まっており、選挙結果に加え、同国の民主主義の行方にも注目が集まっている。
 「記者や独立系メディアに対する攻撃は前例のない規模だ。モディ政権の(次の)3期目でインドの民主主義は終わりを迎えるだろう」。調査報道記者のアナンド・マングナレ氏(36)は現状をそう嘆いた。
 マングナレ氏は昨年8月、国際監視団体「組織犯罪・汚職報道プロジェクト」(OCCRP)の一員として、新興財閥アダニグループに関わる違法株取引疑惑の記事を執筆した。アダニは政権との近さが指摘され、創業者はモディ首相と同じく西部グジャラート州出身だ。
 アダニは不正を否定。記事公表後、マングナレ氏は同州の警察から出頭を命じられた。記事は虚偽と主張する人物からの訴えが理由という。裁判所の命令で拘束は免れている状態だ。
 同氏の携帯端末には情報を抜き取るスパイウエアが仕込まれていたことが判明。このスパイウエアはテロリストの追跡などを目的に開発され、販売先は政府機関に限られる。
 インド政府が仕込んだかは不明だ。ただ、国際人権団体などの調査によれば、感染したのはマングナレ氏がアダニに質問を送った直後だった。同氏は「誰が仕込んだのか理解するのは難しくない」と話す。
 国際ジャーナリスト団体「国境なき記者団」(RSF、本部パリ)が発表した24年の報道の自由度ランキングでインドは180カ国・地域中159位。モディ政権が発足した14年の140位から悪化傾向にある。
 RSFは、記者への暴力などに加え、政権に近い少数のコングロマリット(複合企業)によるメディアの寡占化が進んだことで「世界最大の民主主義国」の報道の自由が危機にひんしていると警鐘を鳴らす。アダニは22年、政権に批判的な報道姿勢で知られた民放NDTVを買収した。
 モディ氏はこうした見方に反論。米誌ニューズウィークのインタビューで「インドのような民主主義国が前進し機能しているのは、フィードバックの仕組みが活発に働いているからだ。メディアは重要な役割を果たしている」と強調した。 

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インドのモディ首相=15日、西部ムンバイ(AFP時事)
インドのモディ首相=15日、西部ムンバイ(AFP時事)

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