ウクライナ避難民、描けぬ将来=がれきの自宅「もう帰れない」―侵攻2年、望郷の念も新生活へ歩み・ドイツ 2024年02月19日 14時16分

ロシアの攻撃で破壊されたウクライナ東部ドネツク州の港湾都市マリウポリの自宅(写真上)。同下は破壊前(アナスタジア・クラチェクさん提供・時事)
ロシアの攻撃で破壊されたウクライナ東部ドネツク州の港湾都市マリウポリの自宅(写真上)。同下は破壊前(アナスタジア・クラチェクさん提供・時事)

 【ベルリン時事】ロシアによるウクライナ侵攻開始から24日で2年を迎え、600万人を超える人々が祖国を逃れた。その多くを受け入れたドイツでも、避難民らは新たな生活の足場を築こうと懸命だ。終戦が見通せない中、望郷の念を抱えながら確かな将来像を描けずにいる人も多い。
 ◇「未来はここに」
 「そう言うなら、私にあなたの住居を下さい!」。ベルリンで避難生活を送るアナスタジア・クラチェクさん(40)は、タクシーの運転手からウクライナは領土を諦めた方がいいと言われ、思わず声を荒らげた。
 東部ドネツク州の港湾都市マリウポリにある自宅は、侵攻が始まって13日後にロシア軍の砲撃を受けた。淡いピンクや紫色に調えたリビングは、灰色のがれきと化した。砲弾や地雷をかいくぐり、命からがら車で町を脱出。車体はチーズのように穴だらけになった。
 たどり着いたベルリンでは、息子(16)と2人でアパート暮らし。ドイツ語を猛勉強し、昨年9月から家庭支援施設で週2回のアルバイトを始めた。「未来は、ここドイツにある」と福祉分野で身を立てる覚悟だ。
 一方、息子は言葉の壁から学校になじめず、ふさぎがちになった。「息子は友達や故郷が恋しく、戦争が終われば戻りたいと思っている。でも、ゼロから生活を始めることがどんなに大変か、分かっていない」。激戦地となったマリウポリは壊滅的な被害を受け、ロシアが一方的に「併合」した。「もう帰る所はない。保証された将来は消え去った」
 ◇新しい出会い
 ロシア国境に近い北東部ハリコフから逃れたインナ・カリニーナさん(24)は、家族と離れてベルリンで暮らしている。侵攻初日から爆発音が響いたハリコフ。町にとどまると言う祖父母を残し、母と弟と共に鉄道で西を目指した。父は戦地に向かった。
 当てもなく到着した西部リビウで途方に暮れ、涙が止まらなかった。流れ着いたベルリンに3人で暮らせる住居はなく、離ればなれに。故郷に残った祖父はその後、末期がんが見つかり、再会できないまま亡くなった。目まぐるしい変化と異国での孤独に打ちのめされた。
 それでも、2022年7月に現在のホストファミリーのもとに身を寄せてからは、専攻していた合唱指揮の勉強を再始動。ベルリンの名門音楽大学に特別聴講生として通い、正規生を目指している。昨年はスイスで、各地に散ったハリコフの音楽仲間とチャリティーコンサートを開き、故郷に寄付した。「ウクライナを離れた人にとって一つ幸運なのは、新しい出会いがあること」と前を向く。
 東部戦線にいるという父からは「寂しいが、ウクライナの外で未来を築いた方がいい」と助言された。「故郷はとても恋しい」と口ごもりながらも、つぶやいた。「戻ることが最善ではない」。 

その他の写真

ウクライナからドイツに避難したアナスタジア・クラチェクさん=1月28日、ベルリン
ウクライナからドイツに避難したアナスタジア・クラチェクさん=1月28日、ベルリン
ホストファミリー宅でピアノを弾くインナ・カリニーナさん=1月20日、ベルリン
ホストファミリー宅でピアノを弾くインナ・カリニーナさん=1月20日、ベルリン
インナ・カリニーナさんがウクライナ北東部ハリコフの音楽仲間とスイスで行ったチャリティーコンサート(本人提供・時事)
インナ・カリニーナさんがウクライナ北東部ハリコフの音楽仲間とスイスで行ったチャリティーコンサート(本人提供・時事)

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