不確実性が増大、慎重な金融政策スタンスを堅持=FOMC議事録 2025年05月29日 08時59分

 米連邦準備理事会(FRB)は、5月6日、7日に開かれた連邦公開市場委員会(FOMC)の議事録を公開しました。今回の会合でFOMCは、フェデラルファンド金利(FF金利)の目標レンジを4.25~4.50%に据え置く決定をしました。

FOMC議事録(要旨) 

■米国経済の現状と見通しに関する議論

【関税】

 参加メンバーは、純輸出の変動が経済指標に影響を与えているものの、入手可能なデータからは、経済活動は堅調な拡大を続けており、労働市場も引き続き堅調である一方、インフレ率はやや高めの水準で推移していると指摘、これまでに発表された関税引き上げは、予想よりも大幅に規模と範囲が拡大していると評価した。通商政策の動向、およびそれに関連する経済効果の規模、範囲、時期、持続性について、かなりの不確実性があるとの見解を示した。財政政策、規制政策、移民政策の変更とその経済効果についても、大きな不確実性が残っている。これらの要因を総合すると、参加者は、経済見通しに関する不確実性が異例の高さに達していると認識した。全体として参加メンバーは、主に関税引き上げの影響を反映して雇用と経済活動に対する下振れリスクが高まり、インフレに対する上振れリスクが高まったと判断した。

【インフレ】

 インフレ率は2022年のピークから大幅に低下したが、当委員会の2%の長期目標に比べてやや高い水準にとどまっているとの指摘があった。多くの参加メンバーは、企業との接触や調査の結果、企業は関税によるコスト上昇を一部または全額、消費者に転嫁する方針を概ね固めていることを指摘した。複数の参加者は、関税の影響を直接受けない企業も、他の価格が上昇すれば、その機会を利用して価格を引き上げる可能性があるとの見方を示した。ほとんどの経済指標は、長期のインフレ期待は引き続きしっかりと定着していると示しているが、一部の参加者は、インフレ期待が上昇し、インフレにさらなる上昇圧力がかかるリスクがあると指摘した。一部の参加者は、中間財に対する関税は、インフレのより持続的な上昇に寄与する可能性があるとの見方を示した。複数の参加メンバーは、インフレ上昇の可能性の程度と持続性を緩和する要因として、進行中の貿易交渉による関税引き上げの縮小、家計の価格上昇に対する許容度の低下、景気の弱含み、移民の減少による住宅インフレ圧力の低下、一部の企業が関税の影響を受けない品目の価格を引き上げるよりも市場シェアの拡大を望む傾向などを挙げた。

【労働市場】

 参加メンバーは、労働市場の状況は概ね均衡を保っているとの判断を示した。失業率は低水準で推移し、この 1 年は狭い範囲内にとどまっている。4 月の雇用者数は堅調に増加し、労働力参加率が横ばい、移民が減少していることを考慮すると、失業率が安定している水準と一致している。解雇も引き続き低水準で推移している。しかし、不確実性の高まりを受けて、取引先や企業調査で回答者が採用を制限または一時停止していると指摘もあった。参加メンバーは、今後数カ月で労働市場が弱まるリスクがあり、労働市場の先行きにはかなりの不確実性が残っており、その先行きは貿易政策やその他の政府政策の動向に大きく依存すると評価した。名目賃金の上昇は引き続き緩やかなものにとどまった。複数の参加メンバーは、労働市場の状況はインフレ圧力要因にはなりそうにないとコメントした。

【米国経済】

 参加メンバーは、入手可能なデータから、経済は引き続き堅調なペースで成長しているとの見方を示した。第 1 四半期の実質 GDP はわずかに減少したが、複数の参加者は、予想される関税引き上げに先立つ輸入の急増が在庫および支出のデータに十分に反映されていないため、この減少は測定上の問題によるものかもしれないとの見方を示した。GDP よりも基礎的な経済情勢をより明確に示す指標である PDFP は、第 1 四半期に堅調な伸びを示した。

【家計部門】

 参加メンバーは、3 月の個人消費は堅調に伸びたと指摘した。複数の参加メンバーは、一部の消費項目に見られる明らかな先取り効果を除けば、関税関連の動きの影響は個人消費の集計データには広くは表れていないとコメントした。複数の参加者は、経済の不確実性の高まりや関税による物価上昇に関連した実質可処分所得の減少などの要因が、予防的貯蓄の増加や個人消費の低迷につながる可能性があると指摘した。関税が個人消費に与えるマイナスの影響を緩和する要因としては、多くの家計のバランスシートが堅調であり関税による購買力の低下を吸収できること、エネルギー価格の下落が家計の負担を軽減すること、関税の影響を受けにくいサービスへの支出シフトが進むこと、といった点が指摘された。

【企業部門】
 企業部門については、第 1 四半期の設備投資の伸びは堅調だったとの見方が示された。しかし、参加メンバーは、企業マインドが急激に悪化しているとの報告も寄せられていることを指摘し、こうした報告は不確実性の高まりを受けて、多くの企業が設備投資計画を一時停止または延期していることを示しているとの見解を示した。複数の参加メンバーは、投入コストの上昇または上昇見通し、およびサプライチェーンの混乱の可能性に関する懸念から、製造業者のマインドは全般的に低迷していると指摘した。
 複数の参加者は、中小企業は利益率の低下を吸収する余力や輸入品からの多角化能力が低いことから、関税の影響を特に受けやすいと述べ、関税により農産物の輸出価格が低下し、投入コストが上昇することで、農家の利益率がさらに圧迫される恐れがあることから、農業部門が直面する厳しい状況を強調した。複数の参加者は、一部の病院システム、大学、非営利団体が、政府による資金削減や移民制限により厳しい状況にあると指摘した。

■金融政策決定に関する議論

 参加メンバーは、インフレ率がやや高水準で推移していることに留意し、最近の経済指標は経済活動が堅調な拡大を続けていることを示唆していると指摘した。純輸出の変動は、在庫や支出のデータに十分に反映されていないようであり、最近の経済活動に関するデータの解釈を複雑にしているとの指摘があった。さらに、失業率は低水準で安定しており、ここ数カ月の労働市場も堅調さを維持しているとの指摘があった。こうした状況下、経済見通しの不確実性がさらに高まり、失業率の上昇とインフレ率の上昇の両リスクが高まっていることを踏まえ、全参加メンバーは、FF金利の目標レンジを4.25~4.50%に維持することが適切であると判断した。また、FRBが保有する証券資産の削減プロセスを継続することが適切であると判断した。

 金融政策の先行きについて参加メンバーは、経済成長と労働市場が引き続き堅調であり、現在の金融政策は緩やかな引締め状態にあることから、インフレと経済活動の先行きがより明確になるまで待つことが適切であるとの見解で一致した。経済見通しの不確実性がさらに高まっているため、一連の政府政策の変更による経済への影響がより明確になるまで、慎重なアプローチを取るべきであるとの見解で一致した。参加メンバーは、金融政策は、入手可能な幅広いデータ、経済見通し、およびリスクのバランスを踏まえて決定されることに留意した。

 金融政策の見通しに影響を与えるリスク管理上の考慮事項について議論した結果、インフレ率の上昇と失業率の上昇のリスクが高まっていることで一致した。長期のインフレ期待を安定的に維持することの重要性を強調し、インフレ率が当委員会の目標を長期間上回っていることから、インフレ期待には特に敏感になる可能性があるとの意見も出された。インフレが予想以上に持続し、成長と雇用の見通しが弱まる場合、当委員会は困難な選択を迫られる可能性があるとの指摘があった。しかし、政府政策の変更の最終的な程度とその経済への影響は極めて不確実であるとの見方も示され、不確実性の高まりが企業や消費者の需要を抑制し、経済活動や労働市場の下振れリスクが現実化した場合、インフレ圧力は弱まる可能性があるとの指摘も一部から出された。

(H・N)

[ゴールデンチャート社]

■関連記事

失業率とインフレ率の上昇リスク高まる=パウエル議長FOMC記者会見スピーチ
5月7日、FRB声明=FF金利、4.25~4.50%に据え置く
■関連情報(外部サイト)
FOMC議事録(原文、FRB)