失業率とインフレ率の上昇リスク高まる=パウエル議長FOMC記者会見スピーチ 2025年05月08日 09時29分
連邦準備制度理事会(FRB)パウエル議長は、5月8日、連邦公開市場委員会(FOMC)直後の記者会見冒頭のスピーチで、トランプ政権の関税政策に言及し、「これまで発表された大規模な関税引き上げが継続されれば、物価上昇、経済成長の減速、失業率の増加を引き起こす可能性があります。インフレへの影響は一時的なものとなる可能性もあります。これは物価水準の一時的な変化を反映する形です。一方で、インフレ効果はより持続的なものとなる可能性もあります。そうした可能性の回避するためには、関税効果の規模、物価に完全に反映されるまでの期間に依存しますが、最終的に長期的なインフレ期待を適切に安定させることに帰着します」と述べました。
FRBの当面の金融政策スタンスに関しては、「政策スタンスの調整を検討する前に、より明確な状況が明らかになるまで待つことが適切であると判断しています」と述べるに留まりました。
パウエル議長FOMC記者会見冒頭スピーチ
[日本語訳 ゴールデンチャート社] 2025年月5月8日
私たちは、米国国民のために「最大雇用」と物価の安定という 2 つの使命の達成に引き続き全力を尽くしてまいります。不確実性が高まっているにもかかわらず、経済は依然として堅調な状況にあります。失業率は低水準で推移しており、労働市場は「最大雇用」またはそれに近い状況にあります。インフレ率は大幅に低下していますが、当委員会の 2% の長期目標を若干上回っています。当委員会の目標達成を支援するため、本日、連邦公開市場委員会(FOMC)は政策金利を据え置くことを決定しました。失業率の上昇とインフレ率の上昇のリスクは高まっているようですが、現在の金融政策のスタンスは、経済情勢の潜在的な変化にタイムリーに対応できる十分な余裕があると考えています。
昨年2.5%の成長率を記録した後、第1四半期のGDPは、関税導入を前に企業が輸入を前倒ししたことが要因とみられる純輸出の変動を反映し、小幅に低下しました。この異例の変動は、直近四半期のGDP測定を複雑にしました。純輸出(*1)、在庫投資、政府支出を除いた民間国内最終消費(PDFP)は、第1四半期には前年同期と同じ3%となり堅調な成長率を記録しました。PDFPの内訳として、個人消費の伸びが鈍化した一方、設備投資と無形資産投資は第4四半期の弱さから回復しました。しかし、世帯と企業の調査では、貿易政策に関する懸念を反映し、景気見通しに対するセンチメントの急激な悪化と不確実性の高まりが報告されています。これらの動向が今後の支出と投資にどう影響するかは、今後の動向を見守る必要があります。
(*1)純輸出とは、輸出額から輸入額を引いた差額のこと
労働市場は堅調な状況が続いています。過去3カ月間の雇用者数は、月平均 15万5000人増加しました。失業率は4.2% と低水準で、この 1 年は狭い変動範囲で推移しています。賃金上昇は引き続き緩やかなペースですが、依然としてインフレ率を上回っています。全体として、網羅的な経済指標は、労働市場が概ね均衡しており、「最大雇用」と整合的であることを示しています。労働市場は、著しいインフレ圧力の要因ではありません。
インフレ率は2022年半ばのピークから大幅に緩和しましたが、2%の長期目標に比べてやや高い水準にあります。3月までの12カ月月間で、個人消費支出(PCE)総合指数は2.3%上昇しました。変動の大きい食品とエネルギーを除くPCEコア指数は2.6%上昇しました。短期的なインフレ期待の指標は、市場ベースと調査ベースの両方の指標で上昇しています。消費者、企業、専門家の予測者を含む調査回答者は、関税を主な要因として指摘しています。ただし、今後1年程度を過ぎると、長期的な期待のほとんどの指標は、当委員会の2%のインフレ目標と一致したままです。
当委員会の金融政策は、米国国民のために「最大雇用」と物価の安定という2つの使命に基づいて実施されています。本日の会合において当委員会は、フェデラルファンド金利(FF金利)の目標レンジを4.25〜4.50%に維持し、バランスシートの縮小を継続することを決定しました。
米新政権は、貿易、移民、財政政策、規制の4つの分野において、大幅な政策変更を実施しています。これまで発表された関税引き上げは、予想を大幅に上回る規模となっています。ただし、これらの政策は依然として進化中で、経済への影響は極めて不確実です。当委員会は、経済指標、見通し、リスクのバランスを注視していきます。もし、これまで発表された大規模な関税引き上げが継続されれば、物価上昇、経済成長の減速、失業率の増加を引き起こす可能性があります。インフレへの影響は一時的なものとなる可能性もあります。これは物価水準の一時的な変化を反映する形です。一方で、インフレ効果はより持続的なものとなる可能性もあります。そうした可能性の回避は、関税効果の規模、物価に完全に反映されるまでの期間に依存しますが、最終的に長期的なインフレ期待を適切に安定させることに帰着します。私たちの責務は、長期的なインフレ期待をしっかりと固定し、一時的な物価水準の上昇が継続的なインフレ問題にならないようにすることです。この責務を果たすため、私たちは、物価の安定がなければ、すべての米国国民に恩恵をもたらす長期にわたる堅調な労働市場を実現することはできないことを念頭に置き、「最大雇用」と物価安定という2つの使命のバランスを取りながら行動していきます。私たちは、二つの使命の目標が緊張状態にあるという困難な状況に直面する可能性があります。そのような状況が発生した場合、私たちは、経済が各目標からどの程度離れているか、およびそれらのギャップが埋まるまでの潜在的に異なる時間軸を考慮します。現時点では、政策スタンスの調整を検討する前に、より明確な状況が明らかになるまで待つことが適切であると判断しています。
今回の会合では、金融政策の枠組みの 5 年間のレビューの一環として、議論を継続しました。インフレの動向と、それが金融政策に与える影響に焦点を当てました。この見直しには、全米各地で開催される「Fed Listens」イベントや来週開催される研究会議など、幅広い関係者によるアウトリーチ(*2)や公開イベントも含まれています。このプロセスを通じて、私たちは新しいアイデアや批判的な意見にも耳を傾け、過去 5 年間の教訓を結論に反映させていきます。見直しは、夏の終わりまでに終了する予定です。FRB は金融政策の目標として「最大雇用」と物価の安定の 2 つの使命を託されています。私たちは、「最大雇用」への支援、インフレ率の2% の目標への引き下げ、長期のインフレ期待を安定的に維持することに引き続き全力を尽くします。これらの目標の達成は、すべての米国国民にとって重要なことです。私たちの行動は、全米のコミュニティ、家族、企業に影響を与えることを理解しています。私たちの行動はすべて、公共の使命のためにあります。FRB は、「最大雇用」と物価安定という目標の達成に向けて、全力を尽くしてまいります。
(*2)アウトリーチとは、福祉や教育、文化、ビジネスなど様々な分野で、支援や情報、サービスを積極的に届ける活動のこと
[ゴールデンチャート社]
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FOMC記者会見議事録(FRB原文)