【2023年12月18日~19日】金融政策決定会合における主な意見(要約) 2023年12月27日 17時35分
金融政策決定会合における主な意見(2023年12月27日)
1.金融経済情勢に関する意見
(1)経済情勢
- わが国経済は、緩やかに回復しており、先行きも緩やかな回復を続けるとみられる。ただし、経済・物価の不確実性は、引き続き、きわめて高い。
- 国内経済は全体として底堅く推移している。地政学リスクや海外経済の減速懸念はあるが、個人消費は物価上昇の影響も受けつつも増加基調を維持しているとみられるほか、企業業績や設備投資計画は堅調である。
- 先行きの個人消費については、賃上げの動きが今後も継続し、所得面から個人消費を支えていけるかがポイントとなる。
- 経営リソース強化により自律性の高い企業への成長が可能になるため、比較的規模の大きな中小企業や中堅企業とスタートアップの成長に注目している。
- 円高や海外経済減速に伴う操業度低下への対応策として原価低減の強化が採られると、賃上げ・投資意欲が低下する可能性があるため、中小企業を含む業績計画や経営方針を注視している。
(2)物価
- 基調的な物価上昇率が「物価安定の目標」に向けて徐々に高まっていくという見通しが実現する確度は、少しずつ高まってきている。
- 既往の輸入物価上昇の価格転嫁の影響が徐々に和らいでいる一方、サービス価格等は、人件費上昇なども背景に、緩やかに上昇幅を拡大する方向にある。
- 海外における消費者物価の上昇率が低下してきている中、わが国でも、財価格を中心とする物価上昇率の鈍化が次第に明確になっている。この点を踏まえると、わが国の先行きの消費者物価の上昇率も、一旦減速する可能性が高まっている。
- 短観等をみると、中長期的なインフレ予想が緩やかに上昇傾向にある中、政府のサポートも奏功し、中小企業の価格設定スタンスにも変化がみられていることが窺われる。
- 「物価安定の目標」の実現には、来年度以降も賃上げが継続して行われることが重要であるため、中小企業を中心とした企業の賃上げ動向について注視する必要がある。
- 賃金と物価の好循環の進展をみるうえで、コスト上昇を生産性向上で吸収することが製造業対比で難しいサービス業において、賃上げによる人件費上昇の価格転嫁が進んでいくかに注目している。
- 賃金からサービス価格への転嫁については、企業からは引き続き難しいという声が多く聞かれる。統計上も、上昇が目立つのは宿泊費くらいで、消費者物価全体へのサービスの寄与は1%程度にとどまる。
- 価格設定を巡る制度や慣行が賃金と物価の好循環の強まりを妨げていないか注意が必要である。
- 賃上げによるコスト上昇は企業努力で吸収すべきとの思想が根強い中、賃上げの価格転嫁には顧客満足度向上が必要である。そのためには、能力開発や人材・研究開発投資が重要となる。
- 賃上げのモメンタムは昨年を上回っている。また、人件費を物価に転嫁する動きが広がっており、粘着的なサービス価格も、高い伸びが続いている。この背景には、わが国企業の賃金・価格設定行動の変化がある。
- 輸入物価上昇の影響は和らいでいくと見込まれるが、その賃金と物価の好循環への波及が連続的に生じ出しているほか、世の中の空気の変化から賃上げへのベクトルが揃い、来年の賃金上昇率は今年を上回る蓋然性が高い。「物価安定の目標」実現が視野に入ってきたと考えるが、今年度下期はその最終的な見極めの重要な局面である。
2.金融政策運営に関する意見
- 現時点では、「物価安定の目標」の持続的・安定的な実現を十分な確度をもって見通せる状況には、なお至っておらず、イールドカーブ・コントロールのもとで、粘り強く金融緩和を継続する必要がある。
- マイナス金利やイールドカーブ・コントロールの枠組みの解除
- を検討するためには、賃金と物価の好循環を確認し、これをベースに、2%目標の持続的・安定的な実現が見通せるようになる必要がある。
- 賃金と物価の好循環を通じて2%目標を実現するためには、名目賃金の上昇モメンタムが一段と強まっていくことが必要である。このため、金融緩和の継続を通じて賃上げのモメンタムを支えることが重要である。
- 物価への強い上昇圧力が落ち着きつつある環境を踏まえると、現行のイールドカーブ・コントロールのもとで、賃金や物価動向を見極めることが重要である。
- これまで賃金上昇率が物価上昇率に追いついてこなかったことを考えると、来春の賃上げが予想よりかなり上振れたとしても、そのために、基調的な物価上昇率が2%を大きく上回ってしまうリスクは小さい。現在、慌てて利上げしないと、ビハインド・ザ・カーブになってしまう状況にはなく、少なくとも来春の賃金交渉の動向を見てから判断しても遅くはない。
- 前回会合でのイールドカーブ・コントロールの柔軟化により、イールドカーブが歪む状況が生じにくくなっている。このため、インフレの基調が過度に強まる状況にならない限り、賃金と物価の好循環を通じた2%目標の実現の見極めは十分な余裕を持って行うことができる。
- 人手不足がドライバーとなり、経済構造の変化の芽が生まれている。千載一遇のチャンスを逃がさぬよう変革の後押しに集中し、当面は現状の金融緩和継続が適当である。
- 物価が過度に上振れて、急激な金融引き締めが必要となるリスクは小さいが、そのリスクが顕在化した場合のコストは甚大である。
- 2%の「物価安定の目標」の持続的・安定的な実現の確度は更に高まってきており、金融正常化のタイミングは近づいている。拙速はよくないが、「巧遅は拙速に如かず」という言葉もある。物価高が消費の基調を壊し、物価安定目標の実現を損なうリスクを避けるためにも、タイミングを逃さず金融正常化を図るべきである。
- 将来の出口を見据え、イールドカーブ・コントロールやマイナス金利政策について、効果と副作用を見極めたうえでその在り方を議論する必要がある。
- 当面は個人消費など国内需要を注視すべきと考えるが、経済・物価情勢が改善傾向にあることを踏まえると、今後、イールドカーブ・コントロールや長期国債以外の資産買入れの取り扱いについて、市場への影響にも配慮しつつ検討すべきである。
- フォワード・ガイダンスにいう「安定的に持続するために必要な時点まで」との条件とは、「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」に一定の修正を行っても「目標」の実現が見通せる場合には当該修正を許容する趣旨と考えられる。こうした条件の実現がその後の金利パスまでを含意するものではない。
- 今後の賃金・物価動向との関連を意識しながら、出口のタイミングやその後の適切な利上げのペース等について、引き続き議論を深めていくことが重要である。
- 日本銀行は、多額の国債を保有し、市場の金利リスク量の多くを抱えるだけに、中央銀行のバランスシートや収益変化のメカニズムを情報発信することは、出口での政策運営能力への信認
- 維持の観点からも重要である。
3.政府の意見
(1)財務省
- 政府としては、先般、総合経済対策を実行するための補正予算が成立した。来年度予算は、現在、大詰め作業を進めているところである。
- 来年度の税制改正については、14日に与党において税制改正大綱がとりまとめられたところ、政府としても適切に対応したい。
- 日本銀行には、政府との緊密な連携のもと、物価安定目標の持続的・安定的な実現に向けた適切な金融政策運営を期待する。
(2)内閣府
- 総合経済対策により、物価高から国民生活を守り、賃上げの流れを継続・拡大する。また、供給力強化を通じ潜在成長率を引き上げ、賃上げを持続的なものとする。フロンティア開拓、新技術の社会実装等により、人口減少下でも持続的に成長できる経済を構築する。
- 日本銀行には、経済・物価・金融情勢を踏まえつつ、賃金の上昇を伴う形での2%の物価安定目標の持続的・安定的な実現に向け、適切な金融政策運営を行うことを期待する。
以上
[ゴールデン・チャート社]
■関連リンク
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■参考資料(外部サイト)
金融政策決定会合における主な意見(2023年12月18日、19日開催分)(日本銀行)