【2023年10月30日~31日】金融政策決定会合における主な意見(要約) 2023年11月09日 14時12分

金融政策決定会合における主な意見(2023年11月9日)

1.金融経済情勢に関する意見

(1)経済情勢

  • わが国経済は、緩やかに回復しており、先行きも緩やかな回復を続けるとみられる。ただし、経済・物価の不確実性は、引き続き、きわめて高い。
  • わが国経済の先行きは、上下双方向のリスクが相応に高い状況が続いている。特に、米国経済をみるとソフトランディング期待が高まっているものの、なお不透明感があることから、その動向が及ぼす影響について注視する必要がある。
  • 物価上昇による消費者の生活防衛的な行動は強まっているが、先行きの賃金上昇期待や企業の様々な販売促進策が支えとなって、個人消費は底堅く推移している。
  • 持続的な賃金上昇や成長と分配の好循環には、改革の遅れている中小企業を中心に、企業の稼ぐ力を強化し、賃上げ余力を高める必要があり、上場企業の中間決算発表での業績見通しの上方修正規模や、中小企業への波及拡大に注目している。
  • 日本経済の成長率を高めるには、新たな市場を創造し、成長をリードするスタートアップの成長と資金調達環境改善が重要である。

(2)物価

  • 物価見通しは上振れているが、その主因はコストプッシュである。2%の持続的・安定的な実現には、コストプッシュがなくなった後も、自律的に賃金と物価の好循環が回り続けることが必要である。
  • 消費者物価の上昇率は低下しつつあるものの、企業による価格転嫁の動きが想定以上に広がったことから、その低下幅は予想よりも緩やかである。
  • 4月以降の物価見通しの上振れは、値上げ頻度やその幅など、企業の価格改定の想定以上の広がりによるものであり、コロナ禍からの経済回復や賃金上昇期待が背景にあると考えられる。
  • 賃金と物価の好循環の強まりを確認していくためには、来年の春季労使交渉と共に、賃金上昇が物価に反映されていくかも注視していく必要がある。
  • 賃金と物価の好循環の達成に向けて、来春の企業の賃上げ動向が大きな鍵を握っている。
  • バブル崩壊以降続いた賃金は据え置くとの企業行動に変化が生じたと考えられる。
  • 賃金動向を反映しやすく、粘着的な企業向けサービス価格の伸びが着実に高まっており、賃金上昇に伴う物価上昇圧力が中小企業を含めて一段と高まっていくかを注視している。
  • 企業は、①輸入物価の転嫁、②賃上げ、③人件費の転嫁、④価格戦略の多様化・商品の高付加価値化、を組み合わせて賃金・価格設定に取り組んでいるが、どの要素も依然まだら模様であり、物価の基調については引き続き注意深く見極めていく必要がある。
  • ベア交渉の出発点となる民間の物価上昇率見通しは、昨年の同時期と比べて本年の見通しが上回るなど、来年の賃上げ率は本年を上回る蓋然性が高い。予想物価上昇率や基調的な物価上昇率の上昇の動きも踏まえると、「物価安定の目標」の実現が視野に入ってきたと考えているが、今年度下期はその見極めの重要な局面である。

2.金融政策運営に関する意見

  • 現時点では、「物価安定の目標」の持続的・安定的な実現を十分な確度をもって見通せる状況には、なお至っておらず、イールドカーブ・コントロールのもとで、粘り強く金融緩和を継続する必要がある。
  • イールドカーブ・コントロールの枠組みやマイナス金利は、少なくとも、2%の「物価安定の目標」を安定的に持続するために必要な時点まで継続する方針であり、その判断には、今後の賃上げ動向をはじめ、賃金と物価の好循環を、双方向からしっかりと確認していく必要がある。
  • 内外の経済や金融市場を巡る不確実性がきわめて高い中、今後の情勢変化に応じて、金融市場で円滑な長期金利形成が行われるよう、イールドカーブ・コントロールの運用において、柔軟性を高めておくことが適当である。
  • 賃金と物価の好循環を通じた2%目標の達成には未だ距離があるため、金融緩和の継続を通じて賃上げのモメンタムを支え続けることが重要である。こうした状況では、イールドカーブ・コントロールは運用を修正しつつも、枠組みとしては維持すべきである。
  • 米国における長期金利上昇の影響を受けて、わが国の長期金利に想定外の上昇圧力がかかっている。粘り強く金融緩和を継続していく必要がある中、こうした状況を踏まえると、イールドカーブ・コントロールの運用のさらなる柔軟化が望ましい。
  • 最近の物価指標や春季労使交渉に向けた経営者の発言等を踏まえれば、2%の「物価安定の目標」の持続的・安定的な実現の確度は、7月の会合時点と比べ一段と高まっていると考えられる。このため、最大限の金融緩和から、少しずつ調整していくことが必要である。
  • 昨年12月以降イールドカーブのコントロールの程度を少しずつ弱めてきているが、予想インフレ率が上昇し、実質金利が非常に低い中、緩和効果は十分保たれている。この段階での緩和効果と副作用のバランスとしては、今回柔軟化する運用が適切である。
  • 名目長期金利の若干の上振れが起きても、実質長期金利はマイナス圏にとどまり、緩和効果は強いままと見込まれる。他方、連続指値オペにより名目長期金利を厳格に抑制し続ける場合、市場機能や市場のボラティリティの面で大きな副作用が発生するリスクは高くなっている。
  • 今回のイールドカーブ・コントロールの柔軟化は、投機的な動きを生じにくくすることにより、イールドカーブ・コントロールの耐性向上に繋がる。
  • 7月に決定したイールドカーブ・コントロールの運用柔軟化以降、債券市場の機能度は改善してきたが、足もとでは物価上昇により投資家の金利目線が高まっていることから長期の資金調達に影響がみられ始めている。また、長期金利の厳格なコントロールによって、ヘッジ取引が困難化するなどの副作用は避ける必要がある。
  • イールドカーブ・コントロールの柔軟化に当たっては、金利の急激な変動を避けつつも、できるだけ市場に金利形成を委ね、流動性の確保・回復を図ることが重要である。
  • イールドカーブ・コントロールの柔軟化は、出口までの間、副作用の発現を抑制し、金融緩和を効果的に継続するため、そして、将来の出口以降は、金融緩和を維持しつつ、円滑に金融正常化を進める上でも、大きくプラスである。
  • 市場において無用の憶測を生じさせないためには、日本銀行の政策判断は、経済・物価の見通しに基づいて行っていることを対外的にしっかりと説明することが重要である。
  • 将来の出口を念頭に、市場機能を重視した価格形成や債券市場を中心とした流動性改善のほか、低金利が続いただけに「金利の存在する世界」への準備に向けた市場への情報発信を進めることが重要である。
  • 物価上昇を上回る賃上げが実現するかはまだ不透明であり、このタイミングでイールドカーブ・コントロールを修正すると、金融引き締めと受け止められる可能性がある。賃金と物価の好循環を実現するチャンスを手放さないよう、当面は辛抱強く現在の金融緩和を続けることが適当である。

3.政府の意見

(1)財務省

  • 今回提案のあった内容については、適切な金融政策に取り組む観点から、適切にご判断いただきたい。
  • 政府においては、総理からの指示に沿って、経済対策の策定に取り組んでおり、経済対策の決定後速やかに、令和5年度補正予算を編成するとともに、あらゆる政策手段を総動員すべく、取り組んでいる。
  • 日本銀行には、政府との緊密な連携のもと、物価安定目標の持続的・安定的な実現に向けた適切な金融政策運営を期待する。

(2)内閣府

  • 提案のあった事項は、日本銀行が物価安定目標を持続的・安定的に達成する、そのために必要な金融緩和の取り組みをより持続的に推進するためのものと受け止めている。こうした変更の趣旨について、対外的に丁寧に説明いただくことが重要である。
  • 日本銀行には、引き続き、経済・物価・金融情勢を踏まえつつ、賃金の上昇を伴う形での2%の物価安定目標の持続的・安定的な実現に向けて、適切な金融政策運営を行っていただくよう期待する。


[ゴールデン・チャート社]

■関連リンク

経済物価情勢の展望、総裁定例記者会見の要約記事などの一覧はこちら

主要各国の金融政策スケジュール

■参考資料(外部サイト)

金融政策決定会合における主な意見(2023年10月30日、31日開催分)(日本銀行)

金融政策決定会合の運営(日本銀行)