【2023年3月9日~10日】金融政策決定会合における主な意見(要約) 2023年03月20日 17時17分

金融政策決定会合における主な意見(2023年3月20日)

1.金融経済情勢に関する意見

(1)経済情勢

  • わが国経済は、資源高の影響などを受けつつも、感染症抑制と経済活動の両立が進むもとで、持ち直している。先行きは、資源高や海外経済減速による下押し圧力を受けるものの、感染症や供給制約の影響が和らぐもとで、回復していくと考えられる。
  • 国内経済は、全体として底堅く推移している。企業は設備投資に前向きであり、個人消費も回復基調にある。一方、輸出は、足もとやや弱い動きであり、中国の旧正月の時期のずれなどの要因も影響しているとみられるものの、海外経済の動向とともに注意が必要である。
  • 企業の長期の経済成長率の見通しが高まっている点は、前向きな動きとして注目される。また、経済成長率の見通しが高まるもとで、企業の設備投資は引き続き堅調であると考えられる。
  • 個人消費は、全体としては回復基調にあるが、それには各種の消費刺激策の効果も影響しているため、物価上昇の影響を含めて回復の持続力を注視したい。
  • 消費の弱さの背景には、家計の名目所得の伸びが物価上昇率に届いていないことがあり、何かの支出が増えれば他の支出を切り詰めざるを得ないというのが実情と考えられる。名目所得の上昇により実質所得が上昇するかどうかが重要であるが、今年の労使間の賃金交渉の結果だけでなく、その後の賃上げの広がりと持続性も確認したい。
  • 中小企業を含め、高めの賃上げが実現する可能性が相応にある。前回会合時点と比べ、その可能性は高まっている。
  • 持続的な賃上げの実現には、従業員のエンゲージメントを高めるような職務に応じた賃金カーブへの改革や、コア事業を強化するポートフォリオ改革、労働の高付加価値化や高生産性事業への労働力のシフトが重要であり、まずは労使交渉による賃金構造の変化に注目している。また、中小企業の賃上げ率向上には、適正な価格転嫁と持続的な付加価値向上が重要である。
  • 「物価安定の目標」の持続的・安定的な実現に向けた一歩として、今春の労使間の賃金交渉の結果は重要である。この点、前向きな企業の賃金・価格設定行動がみられているだけに、想定以上の賃金上昇率につながる可能性がある。

(2)物価

  • 消費者物価の前年比は、政府の経済対策によるエネルギー価格の押し下げ効果に加え、輸入物価の上昇を起点とする価格転嫁の影響も減衰していくことから、来年度半ばにかけて、プラス幅を縮小していくと予想される。
  • 消費者物価は、輸入物価の上昇を起点とする価格転嫁の影響の減衰から、財価格を中心にプラス幅を縮小していくとみられる。
  • 消費者物価上昇率は、本年後半に2%を下回るとみている。その後再び2%に向けて伸びを高めるためには、粘着性の高いサービス価格の持続的上昇が必要である。そのためには賃金の一段の上昇が不可欠の要件である。
  • 企業の価格転嫁の動きは続いており、持家の帰属家賃を除くサービスの価格も、前年比1%台後半まで上昇してきている。この先、物価が想定以上に上振れるリスクに対して、注意のうえにも注意を重ねていく必要がある。
  • 昨年来の海外発の大幅な価格ショックが、物価に対する「ノルム」を転換させる可能性がある。その場合、コスト・プッシュ圧力の減衰後も企業の前向きな価格・賃金設定行動が続き、想定よりも高い物価上昇が持続することも考えられる。
  • 物価が上がりにくいという「ノルム」には変化がみられるが、需給ギャップの改善が遅れたり、賃上げが広がりや持続性を欠く場合には、今後予想されるコスト・プッシュ圧力の減衰とともに、再び物価が上がりにくい状況に戻るリスクも残っている。

2.金融政策運営に関する意見

  • 経済・物価見通しを踏まえると、「物価安定の目標」の達成まで金融緩和を粘り強く続けることが必要である。
  • 2%の「物価安定の目標」の達成を十分に見通せるようになるまでは、イールドカーブ・コントロールを含めた現状の金融緩和の継続が必要である。
  • イールドカーブの歪みなどの副作用もあるだけに、効果と副作用とのバランスの検証も含め、市場の機能度を予断なく見極めていく必要があるが、現在は大規模緩和を粘り強く続けていくべき局面である。
  • イールドカーブ・コントロールの運用見直しの市場機能への効果を見極めるにはまだ時間が必要であるが、消費者物価上昇率が実際に低下し、それを受けて市場の金利見通しが落ち着いてくれば、イールドカーブの歪みも是正されていくものとみている。
  • イールドカーブの形状は、共通担保オペや国債補完供給の運用面の工夫などもあって、ひと頃に比べれば総じてスムーズとなっているが、今後も、各種措置の影響を含め、市場の動向を注意深くみていくべきである。
  • 12月の会合以降、数々の措置を講じ、一定の効果が出てきた面はあるが、市場機能の根本的な改善には至っていない。今後のマーケットの状況、経済、物価や賃金の動向を、謙虚かつ真摯にみていき、必要な場合には、社債市場やスワップ市場を含めた市場機能の改善を図り、金融緩和の効果が実体経済に持続的・効果的に伝わるようにすることが必要である。
  • 社債市場では発行スプレッドの拡大は一服しているが、国債市場の機能度低下の影響は引き続き残っており、注視が必要である。
  • 「物価安定の目標」の達成には、日本銀行が2%の目標を堅持しつつ、その達成にコミットすることによって、予想物価上昇率を目標にアンカーすることが重要である。
  • 足もとの物価高を受けて緩和の見直しを求める声もあるが、現在は「物価安定の目標」の実現に向けて良い方向に環境が変化しつつある状況であり、政策転換が遅れるリスクよりも、拙速な政策転換によって目標達成の機会を逃すリスクの方を重視すべきである。
  • 2%の「物価安定の目標」へのコミットメントを堅持することがきわめて重要である。目標についての議論を始めると、「物価安定の目標」の実現の可能性が増しているにもかかわらず、金融政策運営に関する無用な憶測を招く惧れがある。同様に、共同声明についても改定の必要性はないと考えている。
  • わが国経済にとっては、経済成長とともに賃金も増加する経済・賃金構造への改革が重要である。実現に時間がかかっているからといって物価目標を引き下げて金融緩和を見直すと、必要な改革が先送りになるリスクがある。
  • わが国経済には好循環の兆しはみられるものの、金融政策の修正は、金融市場や幅広い経済主体に影響を与えるものであることから、慎重に検討・議論する必要がある。
  • 持続的な賃金上昇に必要な供給サイドの改革が進み、好循環への期待が確信に変わるよう、粘り強く金融緩和を継続し企業の改革の動きを支える必要がある。

3.政府の意見

(1)財務省
  • 令和5年度予算は、防衛力の抜本的な強化、こども・子育て支援の強化など、現下の重要課題に一定の道筋を付けるもので、一日も早い成立に向け尽力する。
  • また、足元の物価動向に速やかに対応すべく、エネルギー・食料品価格の影響緩和について、新たな対応策をとりまとめていきたい。
  • 日本銀行には、政府との連携の下、経済・物価・金融情勢を踏まえ、物価安定目標の持続的・安定的な実現に向けた適切な金融政策運営を期待する。
(2)内閣府
  • 2月の東京都区部の消費者物価指数が1月より1%ポイント上昇幅が縮小するなど、総合経済対策・補正予算の効果が現れている。
  • 他方、これまでの原材料価格上昇や円安の影響による食料品を中心とした値上げが続いており、エネルギー・食料品価格の影響緩和について、必要な追加策を検討していく。
  • 日本銀行には、政府と緊密に連携し、物価安定目標の持続的・安定的な実現に向けた適切な金融政策運営を期待する。

[ゴールデン・チャート社]



■関連リンク

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主要各国の金融政策スケジュール

■参考資料(外部サイト)

金融政策決定会合における主な意見(2023年3月9日、10日開催分)(日本銀行)

金融政策決定会合の運営(日本銀行)