【2025年7月30日~31日】金融政策決定会合における主な意見(要約) 2025年08月08日 10時20分

金融政策決定会合における主な意見(2025年8月8日)

1.金融経済情勢に関する意見

(1)経済情勢

  • わが国経済は、一部に弱めの動きもみられるが、緩やかに回復している。先行きは、各国の通商政策等の影響を受けて成長ペースは鈍化するものの、その後は海外経済が緩やかな成長経路に復していくもとで、成長率を高めていくとみられる。
  • 日米間の関税交渉の合意は、大変大きな前進であり、日本経済にとって、不確実性の低下につながる。前回の展望レポートのメインシナリオを書き換えるものではないが、これが実現する確度は高まった。
  • 日本からの対米輸出が多い業種は輸送用機器や大型機械などであるが、短観等において関税の影響が大きく広がっていない理由としては、非製造業など関税の直接的な影響が少ない業種が調査対象として広くカバーされていることが影響している可能性がある。
  • 通商政策については、これまで発生してきた駆け込み輸出の影響が今後剥落し、さらに関税の負の影響が出てくる局面に入りつつあることに注意が必要である。
  • 米国の関税政策の基本的な内容は固まったが、今後は、米国経済において、関税によるインフレがどの程度進んでいくのか、米国の消費者がそのインフレに直面して消費をどの程度減らしていくのか、様々な角度からの分析・調査が必要である。
  • 世界経済が米国の関税政策の影響を吸収している力には、目をみはるものがある。ただ、世の中の捉え方がやや楽観的に過ぎないか、もう少し経過をみる必要がある。
  • 関税を中心として経済成長にマイナスに働く政策が先行したが、日米関税交渉の合意や米国減税法案の可決など、局面が変化した。
  • 感染症拡大期と同様、今次局面でも世界的な危機意識から欧米・中国・新興国が揃って財政金融両面で緩和策に傾く中、経済押し上げ・インフレ圧力が生じ、世界経済が予想以上に上振れる可能性がある。
  • 賃上げは、春季労使交渉における賃金改定を重視しているが、それ以外の多面的な動きにも注目したい。最低賃金の引き上げ幅や、企業収益を踏まえた冬の賞与、また転職を通じた賃金改善の状況等もみていく必要がある。

(2)物価

  • 消費者物価の基調的な上昇率は、成長ペース鈍化などの影響を受けて伸び悩むものの、その後は、成長率が高まるもとで徐々に高まっていくと予想され、見通し期間後半には「物価安定の目標」と概ね整合的な水準で推移すると考えられる。
  • 基調的な物価上昇率の評価にあたっては、様々な情報を丁寧にみたうえで総合的に判断していく必要がある。足もとまでの動きを踏まえると、基調的な物価上昇率は、2%に向けて緩やかに上昇しているものの、なお2%には至っていないと考えられる。
  • 米価格は引き続き高めで推移するとみているほか、その他の食料品についても、価格転嫁の広がりによって上昇圧力が続くとみている。足もとの猛暑や水不足の影響については、食料品の供給制約となる一方、財・サービス需要の低下や、生産性への影響なども考え得るため、物価に対して上下双方向に作用するリスクがある。
  • 物価水準がインフレ予想に影響し得るとの研究もあり、今後、米価格の前年比上昇率が鈍化しても、インフレ実感が低下しない可能性もある。基調的な物価上昇率は、推計誤差等も踏まえると足もと2%ぐらいとみているが、物価の下振れリスクもある中、今後この水準で定着するかみていく必要がある。
  • デフレノルムの時代には、一時的な物価下落要因の効き目が大きかったが、最近では輸入物価の下落などの下押し方向の要因の影響はあまり広がりがみられず、逆に、一時的な物価上昇要因が大きく効くようになっている。こうした変化の背景には、人手不足の高まり、価格・賃金の設定や価格転嫁に関する企業や消費者の考え方の変化、インフレ予想の上昇などがある可能性がある。
  • ①日米交渉合意、②企業の前向きな賃金・価格設定行動の維持、③物価上振れを踏まえれば、見通し期間前半に物価目標実現と判断できる可能性は、4月時点対比、高まった。2%を大きく上回るインフレが3年以上続く中、予想物価上昇率は2%程度に達しており、これが更に上昇しないか懸念される。
  • 今後の財政政策が、物価押し上げに繋がらないかには、十分注意する必要がある。

2.金融政策運営に関する意見

  • 経済・物価の見通しが実現していくとすれば、経済・物価情勢の改善に応じて、引き続き政策金利を引き上げ、金融緩和の度合いを調整していくことになる。そのうえで、こうした見通しが実現していくかは、不確実性が高い状況が続いていることを踏まえ、予断を持たずに判断していくことが重要である。
  • 日米の関税合意によっても、「成長ペースが鈍化し、基調的な物価上昇率の改善がいったんは足踏みする」というメインシナリオは不変であり、通商政策やその影響を巡る不透明性は引き続き大きい。今は、現在の金利水準で緩和的な金融環境を維持し、経済をしっかりと支えるべきである。
  • 通商政策の影響が具体的にどう出てくるのか、各国のデータでなお確認できていないほか、米国の消費者物価と労働市場の動向によって、米国の金融政策や為替相場の方向性が大きく変化する可能性があり、もう少しデータを得たうえで政策判断すべきである。
  • 米国関税政策の影響の見極めには、少なくとも今後2~3か月は必要である。仮に、米国経済が想像以上に持ちこたえるようであれば、日本経済への下押しの影響も軽微なものにとどまると思われる。その場合、早ければ年内にも現状の様子見モードが解除できるかもしれない。
  • 米欧と異なってわが国の政策金利は中立金利を下回っているとみられるため、今後も可能なタイミングで利上げを進めていくべきである。日米関税交渉の妥結に対して株式市場がポジティブな受け止め方をしている中、過度に慎重になって、利上げのタイミングを逸することにならないよう、留意する必要もある。
  • 急速な利上げは日本経済に大きなダメージを与えるため、適時に利上げを進めることが、リスク・マネジメント上、重要である。
  • 金融政策運営を考えるうえでは、予想物価上昇率の今後が重要である。過去と異なり、今回の局面では企業業績と賃金の上昇を伴う形で物価と予想物価上昇率の上昇が続いている。米をはじめとする食料品やガソリンなどは、個人が価格水準を意識しやすく、値上がりを実感しやすいことから、予想物価上昇率を押し上げやすいと考えている。
  • 基調的なインフレ率が2%を大きく下回っている間は、政策判断にあたって実際のインフレ率よりも基調を重視することになるが、基調が2%に近付くにつれ、実際のインフレ率も重視する度合いが徐々に高まっていく。
  • 物価動向に関する対外コミュニケーションの中心を、「基調的な物価上昇率」から、「物価の実績と見通し、需給ギャップや予想物価上昇率」に変えていくべき局面である。
  • 基調的な物価上昇率は、特定の数値として示すことは難しいが、中央銀行が金融政策を運営するうえで、大事な概念である。
  • 既に物価が上がらないノルムが転換し、中長期のインフレ期待も引き上がる中、物価上昇の二次的影響が生じやすく、基調的な物価の上昇が生じている。インフレに伴い家計の生活実感が下押しされ、物価の上振れリスクを重視せざるを得ない局面にある中、今や、物価目標の実現を見据えたコミュニケーションも念頭に置く段階に入ったと考える。
  • 10年物国債利回りは足もと1%台半ばとなっている。経済・物価動向などを踏まえると、金融環境は依然緩和的であるとみている。
  • 日本銀行のバランスシートに関しては、短期金利のコントロールに支障をきたさないという観点から、その最適な規模とそこへの経路などを考える必要がある。

3.政府の意見

(1)財務省

  • 政府は、米国の関税措置に関する日米の合意内容やわが国への影響を十分に分析するとともに、中小企業・小規模事業者の資金繰り等への支援の相談にも丁寧に応じること等により、わが国産業や雇用への影響の緩和に万全を期する。
  • 日本銀行には、政府との緊密な連携のもと、内外の経済情勢等を十分に注視し、市場とのコミュニケーションを図りつつ、2%の物価安定目標の持続的・安定的な実現に向けた適切な金融政策運営を期待する。

(2)内閣府

  • 日本経済は、米国の通商政策等による影響が一部にみられるものの、緩やかに回復している。ただし、物価上昇の継続等を通じたリスクには十分注意が必要である。
  • 政府は、米国の関税措置について、関税より投資との考え方の下、合意を実現した。一方で、関税措置は残っており、引き続き必要な対応を行いながら、経済財政運営に万全を期す。
  • 日本銀行には、政府と緊密に連携し、2%の物価安定目標の持続的・安定的な実現に向けて、適切な金融政策運営を期待する。

以上


[ゴールデン・チャート社]

■関連リンク

経済物価情勢の展望、総裁定例記者会見の要約記事などの一覧はこちら

主要各国の金融政策スケジュール

■参考資料(外部サイト)

金融政策決定会合における主な意見(2025年7月30日、31日開催分)(日本銀行)

金融政策決定会合の運営(日本銀行)