異例の大規模緩和に幕引き=植田日銀総裁、就任1年―さらなる正常化に課題も 2024年04月08日 17時13分

金融決定政策会合を終え、記者会見する日本銀行の植田和男総裁=3月19日、日銀本店
金融決定政策会合を終え、記者会見する日本銀行の植田和男総裁=3月19日、日銀本店

 経済学者出身の植田和男氏が日銀総裁に就任して9日で1年。日銀は3月の金融政策決定会合でマイナス金利政策の解除を決定、黒田東彦前総裁が始めた異例の大規模緩和の幕を引き、「普通の金融政策」(植田総裁)へ移行した。ただ、大量に買い入れた国債や上場投資信託(ETF)などを抱え込んだままで、さらなる金融正常化を円滑に進めることが今後の課題となる。
 「積年の課題だった物価安定の達成というミッションの総仕上げを行う5年としたい」。植田氏は就任前の昨年2月、国会の所信聴取で、5年間の任期中に2%の物価目標を達成することに意欲を示した。
 総裁に就いた植田氏は7月と10月に長短金利操作の運用を立て続けに柔軟化し、長期金利の一定の上昇を容認した。今年3月には「物価目標が持続的・安定的に実現していくことが見通せる状況に至った」として、17年ぶりの利上げに踏み切るとともに長短金利操作も撤廃。就任から1年も経ずに金融正常化へ一歩を踏み出した。
 植田総裁は今月8日、衆院で就任当時の心境を吐露。「日銀の政策は難しい体系になっており、もし経済状況が許せばできる限り簡素化して分かりやすくしたいという心構えだった」と語った。その上で、「昨年度の経済状況は比較的良かったので、ある程度希望をかなえることができた」と政策変更を自ら評価した。
 複雑だった日銀の金融政策は短期金利を操作するシンプルな枠組みとなり、市場の注目は、追加利上げや、国債、ETFなど金融資産圧縮のタイミングに移っている。日銀の国債保有残高は約580兆円と、発行総額の半分を占めるまでに膨張。ETFについても日銀は処分を先送りしたままだ。
 ただ、足元では物価高に賃上げが追い付かず、個人消費が低迷。日銀が自信を示す、物価と賃金が共に上昇する「好循環」には依然不透明感もある。2年目に入った植田日銀にとって、さらなる正常化の道筋は平たんではない。
 元日銀理事の門間一夫みずほリサーチ&テクノロジーズエグゼクティブエコノミストは「年内に2回の追加利上げはあり得る」と予想するものの、「来年以降も賃金と物価の好循環が回り続けるかは不確実だ」と指摘している。 

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