「異次元緩和」当事者に聞く=日銀の13年7〜12月議事録 2024年01月31日 17時02分

インタビューに答える白井さゆり慶大教授(写真右、1月25日撮影)と野村総合研究所の木内登英エグゼクティブ・エコノミスト(1月26日撮影)=東京都千代田区
インタビューに答える白井さゆり慶大教授(写真右、1月25日撮影)と野村総合研究所の木内登英エグゼクティブ・エコノミスト(1月26日撮影)=東京都千代田区

 日銀にとって2013年7〜12月は「量的・質的金融緩和(異次元緩和)」の導入直後で、2%物価上昇目標の早期実現へ期待が高まっていた時期だった。その後、消費税増税などを機に再びデフレ圧力が強まり、物価高が続く現在も持続的・安定的な目標達成には至っていない。当時、審議委員だった白井さゆり慶大教授と木内登英・野村総合研究所エグゼクティブ・エコノミストに異次元緩和の評価を聞いた。

 ◇円安・株高で効果も=白井さゆり・元日銀審議委員
 ―異次元緩和の効果は。
 白川方明総裁の時代は金融緩和が小出しになり、円高不況から抜け出せずに株価も低迷した。1度やれるだけやってみる必要があった。円高でなくなり、株価も上がり、良い面もあった。
 ―物価目標の早期達成に期待が高まっていた。
 黒田東彦総裁ら執行部はできると信じていた。ひょっとしたら今までとは違うという雰囲気があった。ただ、物価上昇は円安とエネルギー価格高騰の影響が大きく、持続的かどうかは慎重に見ないといけないと思っていた。(その後の)消費税増税であそこまで消費が落ち込むとは想像しなかった。物価がプラスになってきたところで増税が実施されたのはこたえた。
 ―今後の金融政策は。
 過去25年間の金融政策に関する日銀の検証結果が夏頃に出る見通しで、それに併せて7月にマイナス金利政策撤廃などで正常化するのが最善だ。高齢化で潜在成長率が低い日本で2%目標の実現は難しい。1〜3%と目標をレンジにして、柔軟化したほうがいい。

 ◇賃金・物価「好循環」は絵空事=木内登英・元日銀審議委員
 ―異次元緩和の評価は。
 緩和開始後は物価が上昇し、政策効果が表れているとの見方が強まった。2%の物価目標も「短期決戦」で実現すると楽観論が広がった。ただ、私は2%は達成できないとの立場だった。
 ―その理由は。
 金融緩和だけで(デフレ状態だった)物価が劇的に変化するとは思えなかった。大きな経済の構造改革がなければ達成は難しく、金融政策にそこまでの力はない。一方、黒田東彦総裁は日銀の金融緩和で人々の物価観をコントロールできるとの考えだった。
 ―現在は物価上昇率が2%を超えている。
 円安と原油高で物価が上振れしたのは当時と共通している。日銀は賃上げが企業の価格転嫁を促し、物価を押し上げる「好循環」の実現を目指しているが、到底起こり得ず、絵空事に近い。
 ―今後の金融政策はどうすべきか。
 2%の物価目標実現へのこだわりを捨てることだ。中長期的に目指すなど、柔軟化すべきだろう。市場では今春のマイナス金利の解除を巡る思惑も広がっているが、難しいのではないか。 

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