放射性廃棄物を「宝の山」に=蓄電池・発電利用、白金族元素回収―35年度までの実用化目標・原子力機構 2024年01月15日

 日本原子力研究開発機構は、放射性廃棄物を蓄電池や発電に利用したり、高価な白金族元素などを分離・回収したりする技術を2035年度までに開発する目標を明らかにした。今年度初めに若手研究者ら約25人が兼任でチームを結成。菅原隆徳研究主幹は「実用化できれば世界初。ハードルは高いが、放射性廃棄物を宝の山に変えるビジョンを持ち、集中的に進めたい」と話している。
 原発の使用済み核燃料を再処理し、燃料として利用可能なウラン235やプルトニウムを取り出す日本原燃の工場(青森県六ケ所村)は完成が遅れており、再処理後に残る高レベル放射性廃棄物の最終処分場も候補地が決まらない。しかし、今から技術開発を進めておく必要がある。
 新品や使用済みの核燃料の大半は、燃料にならないウラン238だ。このウランイオンの酸化還元反応を利用する「レドックスフロー電池」は大容量で長寿命の蓄電池になると期待される。原発敷地内に設置すれば、非常用電源に使えるほか、太陽光・風力発電で余った電力を一時的に蓄えて活用できる。
 同電池はバナジウムのイオン電解液を使う方式が実用化されているが、ウランイオン電解液の開発は日本独自の試みだ。タンクからうまく循環させるとともに、決して外に漏らさない工夫が必要となる。ウラン650トンを使った場合、一般家庭3000世帯の1日分の消費電力を蓄電できる見込み。
 一方、高レベル放射性廃棄物は熱や放射線を発するため、電気に変換できれば原子力施設の計器類などの電源になる。ただ、熱を電気に変える一般的な半導体の熱電素子は、放射線によって劣化してしまう。
 家田淳一マネジャーは東北大助教だった08年に慶応大と共同で、磁石の両端に高低の温度差をつけるだけで磁気の流れ(スピン流)が生じ、発電に利用できることを発見。その後原子力機構で、磁性体と白金の薄膜を張り合わせた「スピン熱電素子」を開発し、放射線に耐えて発電できることを実証した。今後は規模を拡大するのが課題だ。
 放射線のうち、エネルギーの高い電磁波であるガンマ線を特殊な半導体に当て、太陽電池のように発電する研究にも取り組んでいる。
 使用済み核燃料には、触媒に使われるパラジウムやロジウムなどの高価な白金族元素が多く含まれる。1年間に800トンを処理して分離した場合、約300億円相当に上ると試算される。伴康俊グループリーダーは「溶解して分離する方法を開発できれば、都市鉱山と呼ばれる使用済みのスマートフォンやパソコンなどの再資源化にも応用できる可能性がある」と話している。 

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放射性廃棄物を利用する技術開発に取り組む日本原子力研究開発機構の家田淳一マネジャー(左)、伴康俊グループリーダー(中央)、菅原隆徳研究主幹=2023年11月、東京都千代田区の同機構東京事務所
放射性廃棄物を利用する技術開発に取り組む日本原子力研究開発機構の家田淳一マネジャー(左)、伴康俊グループリーダー(中央)、菅原隆徳研究主幹=2023年11月、東京都千代田区の同機構東京事務所

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