「経済安保」戦線拡大=米中対立、主要国に対応迫る―成長との両立課題 2021年12月30日

 【ワシントン時事】2021年は米中対立を背景に、世界経済秩序に挑戦する中国の脅威から国益を守る「経済安全保障」への関心が急速に高まった。貿易摩擦は先端技術や人権問題にも戦線が拡大。トランプ前米政権の対中強硬路線を引き継いだバイデン政権が日本や欧州にサプライチェーン(供給網)の「脱中国依存」を迫る中、主要国は経済安保対応と成長実現の両立という課題を突き付けられている。
 バイデン大統領は中国を「唯一最大の競争相手」と見なし、日米豪印4カ国の連携枠組み「クアッド」や先進7カ国(G7)の結束を強めて「中国包囲網」の形成を図った。協力分野は半導体供給網の再編、中国通信機器大手・華為技術(ファーウェイ)の規制、中国による新疆ウイグル自治区での人権侵害と巨大経済圏構想「一帯一路」への対抗策など際限なく広がる。
 22年はインド太平洋地域を舞台とした米中の覇権争いが一段と激化する。米国は「インド太平洋の新たな経済枠組み」構想の具体化を急ぐ一方、中国は米国が離脱した環太平洋連携協定(TPP)加入手続きを進めて対抗する構えだ。同年秋に米国は中間選挙、中国は共産党大会を控えて互いに弱腰は見せられず、地政学的リスクが高まる。
 先行きのカギを握るのが日本の対応だ。米国家安全保障会議(NSC)のキャンベル・インド太平洋調整官は22年のクアッド日本開催に期待を示し、「サイバーや宇宙分野でも対中戦略を強化できる」と指摘。TPPを主導する日本が「中国の出方を決める」と注視する。
 岸田文雄首相は経済安保担当相と国際人権問題担当の首相補佐官を初めて設置。主に中国の脅威に備える「経済安保推進法案」の早期制定を目指す。欧州連合(EU)も対中投資協定の批准を中止するなど、経済安保対応を加速させている。
 ただ、米中分断が成長を阻害するのも事実。各国は中国経済を成長に取り込んできたからだ。英経済誌の調査部門エコノミスト・インテリジェンス・ユニットは22年の最大リスクに米中対立を挙げ、「世界規模の制裁合戦」に警鐘を鳴らした。日本やEUは、同盟国の米国、最大貿易相手国である中国のいずれとも敵対しづらく、板挟みになると予想する。
 半導体生産が集中する台湾に中国が武力侵攻すれば「世界経済に壊滅的な打撃」(米議会超党派機関)は避けられない。米ハーバード大で日米関係プログラム所長を務めるクリスティーナ・デイビス氏は「日本が米中の仲介役を果たし、中国が国際社会で孤立しないよう配慮することも必要だ」と訴えている。 

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米中両国の国旗(AFP時事)
米中両国の国旗(AFP時事)

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