米軍訓練費負担で抑止力強化=「質的転換」も増額懸念 2021年12月21日

 在日米軍駐留経費の日本側負担(思いやり予算)は、年間で93億円余りの増額となる2110億円で決着した。日本政府は新たに訓練機材の調達費を設ける一方、光熱水費を大幅削減し、「質の転換」(政府関係者)を図った。抑止力、対処力強化に寄与する経費を中心に米側の増額要求に応じた形だが、さらなる負担増につながりかねないと懸念する声も上がる。
 合意を受け、岸信夫防衛相は「厳しい安全保障環境に肩を並べて立ち向かい、日米同盟をより強靱(きょうじん)なものとしていく決意を示すことができた」と記者団に意義を強調した。
 米国にとって増額は「同盟国から信頼を得ている証し」(米政府関係者)。中国の軍事的台頭で在日米軍の重要性が高まる中、日本側は当初から一定程度の増額には応ぜざるを得ないと考えていた。要求額は一時、年間2500億円程度に跳ね上がったが、日本側は安全保障法制の整備を通じて自衛隊の役割が増していることをアピール、増額幅を圧縮させた。
 日本側は光熱水費の削減を求め、年間234億円から段階的に133億円に減らすことで合意した。1991年度に導入された際には、「暫定的、特例的かつ限定的」な措置と国会で説明されたが、そのまま固定化。在日米軍人やその家族が私生活で使う光熱水費も負担していることが、かねて批判の的となってきた。防衛省幹部は「粘り強い交渉ができた」と振り返る。
 一方、新設が決まった訓練資機材調達費では、在日米軍が導入する最新鋭システムなどの導入費を5年間で最大200億円分賄う。遠隔地にいる部隊がシミュレーターを使ってネットワーク上で共同訓練に参加できるようになり、「あたかも同じ地域にいるような感覚で訓練できる」(防衛省幹部)という。
 日本政府は、こうした経費は米軍のみならず自衛隊の能力向上にも役立つと説明。米側の求めに応じて増額しても、国民の理解を得られると判断した。
 訓練資機材調達費は総額200億円を上限とすることで合意したが、米側が次の改定時に、訓練の充実などを理由に日本側の負担増を求めてくる可能性は否めない。防衛相経験者は「歯止めがかからなくなるのではないか」との見方を示した。 

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記者会見する岸信夫防衛相=21日夕、東京都新宿区の防衛省
記者会見する岸信夫防衛相=21日夕、東京都新宿区の防衛省

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