WTO加盟支持で「誤算」=米中、GDP逆転も―自由貿易岐路に 2021年12月13日

 【ワシントン時事】2001年12月に中国が世界貿易機関(WTO)に加盟してから20年。中国は貿易総額で世界トップに躍進する一方、国内の改革は十分に進まず、加盟を後押しした米国の期待は失望に変わった。国内総生産(GDP)の米中逆転も迫っており、米国は中国を「唯一最大の競争相手」と位置付けて貿易戦争を仕掛けた。世界の自由貿易体制は岐路に立たされている。
 世界の貿易量に占める中国の割合は13年に世界1位となり、専門家は30年ごろにGDPが米国を追い抜くと予想する。一方、WTOルールを無視して国力増大を図る中国の問題点も浮き彫りとなった。中国が加盟後に他国などから提訴されたケースは47件と、日本が同じ期間に提訴された件数の約9倍に上る。
 「米国が中国のWTO加盟を支持したことは明らかな誤り」。トランプ前米政権は18年1月に発表した通商代表部(USTR)の報告書でこう結論付け、中国の知的財産権侵害を理由に関税合戦へ突入した。米中が掛け合う関税率は20%前後に達し、第2次大戦前の水準に匹敵する。
 対中強硬路線を引き継いだバイデン政権は、中国の習近平指導部が巨額補助金をつぎ込むハイテク産業育成戦略「中国製造2025」に矛先を向ける。国際経済研究所によると、中国上場企業向けの補助金は過去10年で約5倍に膨らんだ。WTOには補助金を取り締まる明確な規定がなく、タイUSTR代表は「中国は『グレーゾーン』を悪用して市場をゆがめている」と訴える。
 バイデン政権の対中競争の切り札が国内でのインフラ投資だ。政府が介入する産業政策は米国でタブー視されてきたが、半導体などの戦略物資には「政府の関与が重要」(米国家安全保障会議の報告書)と方針転換した。米GDPに占める製造業の比率は昨年、戦後最低の10.5%を記録しており、事実上の補助金政策で対抗する構えだ。
 「自由貿易の番人」と呼ばれるWTOは全会一致が原則だが、米中対立を背景に機能不全が深刻化している。中国の輸出攻勢を受けた米国では保護主義がまん延し、バイデン政権になっても環太平洋連携協定(TPP)への復帰に慎重だ。
 中国のWTO加盟時にUSTR代表を務めていたゼーリック元世界銀行総裁は「関税合戦に補助金合戦が加われば国際貿易ルールの形骸化は避けられない。米国は多国間の枠組みに積極的に関与して指導力を発揮すべきだ」と提唱している。 

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中国の世界貿易機関(WTO)への加盟文書に署名する中国の石広生対外貿易経済協力相=2001年11月11日、カタール・ドーハ(AFP時事)
中国の世界貿易機関(WTO)への加盟文書に署名する中国の石広生対外貿易経済協力相=2001年11月11日、カタール・ドーハ(AFP時事)

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