賃上げ税制、基本給案頓挫=「首相演出」も不発―税制改正 2021年12月09日

 2022年度税制改正の目玉となった賃上げ税制の見直しは、基本給の引き上げを重視した自民党案が頓挫し、ボーナスを含む給与総額の増加を対象とすることで決着した。議論の過程では、岸田文雄首相が自ら控除率を公表する「演出」が不発に終わる事態も起こり、政府・与党内ではぎりぎりの調整が繰り広げられた。
 「かなりいい賃上げ税制ができた」。自民党の宮沢洋一税制調査会長は9日、党本部で記者団にこう強調した。
 賃上げ税制は第2次安倍晋三政権下の13年度にスタート。「成長と分配の好循環」を掲げる岸田首相は抜本的に強化する方針を打ち出し、いとこの宮沢氏に議論を委ねた。
 最終案は、基本控除率15%を土台に、大企業は給与総額を前年度比で4%以上増やすと10%、教育訓練費を同20%以上増加させると5%を上乗せできる。最大控除率は大企業30%(現行20%)、中小企業40%(同25%)に引き上げた。
 宮沢氏は当初、給与総額ではなく、基本給の引き上げに取り組む企業を厚遇する案を模索。景気に左右されるボーナスを含めれば、安定した消費につながりにくいと考えた。税制改正の議論が本格化する前の11月上旬には、経済界関係者との会合で基本給重視の構想を明かすなど、地ならしを進めた。
 しかし、基本給案は「一度上げたら、そう簡単に下げられない」と企業側の不評を買った。首相肝煎りの税制を実現させるため、最後は「賞与含み」を受け入れる苦渋の選択を迫られた。
 首相が「大胆に引き上げる」と宣言した税額控除率でも曲折があった。本来は今月6日、臨時国会の所信表明演説で言及する運びだったが、自公の合意手続きを経ていなかったため、与党幹部が「税調軽視だ」と反発。原稿から具体的な数字は削除され、幻に終わった。
 苦心の末にまとめた税制優遇の拡充も、全体の6割に上る赤字企業には恩恵が及ばない。政府は実効性を高めるため、赤字でも賃上げを行う中小企業を補助金支給で優遇する考えだ。しかし、賃上げの裾野を広げるためには、経済成長の実現が不可欠となる。 

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