巨額公的資金、返済の道筋示さず=新生銀とSBI、相乗効果未知数 2021年11月25日

 新生銀行はインターネット金融大手のSBIホールディングスに対する買収防衛策を取り下げ、SBIの傘下に入る見通しとなった。しかし、同行が抱える約3490億円の公的資金返済の具体的な道筋をSBIは示していない。SBIは同行をグループの中核銀行と位置付け、出資先の地方銀行との連携などを通じて企業価値を高めると説明するが、その相乗効果は未知数だ。
 国は新生銀の前身で1998年に経営破綻した日本長期信用銀行に公的資金を注入した経緯があり、預金保険機構とその子会社の整理回収機構を通じ新生銀株を計2割超持つ。
 国が保有株の売却などを通じて公的資金を回収するには、新生銀の株価は1株7450円に上昇する必要がある。SBIによるTOB(株式公開買い付け)成立を織り込んだ25日の同行株価の終値は前日比11円安の1株1947円。SBI傘下となっても3.8倍に引き上げるのは容易ではない。
 SBIは、新生銀の企業価値向上策について、地銀との連携などで相乗効果を上げ、2025年3月期の純利益710億円と、21年3月期の約1.6倍に拡大させると説明している。
 一方、新生銀の工藤英之社長は25日の記者会見で「SBIとのシナジー(相乗効果)は一切議論していない」と表明。公的資金の議論は棚上げして防衛策取り下げに合意したことを明らかにした。
 急きょ中止となった臨時株主総会で防衛策への反対票を投じるとみられた国側にしても、複数の政府関係者は「防衛策に賛成する合理的な理由があるかが判断の鍵」と指摘。政府としてSBIの収益向上策を支持したわけではないと話す。
 SBIによるTOBが開始された9月、麻生太郎金融相(当時)は「公的資金を保全する観点」で対応を考えると語った。その言葉とは裏腹に新生銀、SBI、国のいずれも公的資金返済の道筋を説明しないまま、異例のTOB劇は幕切れとなりそうだ。 

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予定されていた新生銀行の臨時株主総会の中止を伝える案内=25日午前、東京都千代田区
予定されていた新生銀行の臨時株主総会の中止を伝える案内=25日午前、東京都千代田区

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