北アイルランド「誕生」100年=くすぶる帰属問題―英 2021年05月01日

 【ロンドン時事】英領北アイルランドが南側のアイルランドと分離し、英国に統合されてから3日で100年となる。当局は「連合王国の連帯を示す機会」と位置付けるが、英統治維持を望むプロテスタント系と、アイルランド統一を求めるカトリック系の対立が続く北アイルランドの帰属問題は未解決のまま。祝賀ムードとは言い難い雰囲気の中で歴史的節目を迎える。
 英当局は100周年の記念行事を各地で計画している。約1年を通じ、植樹や音楽祭のほか、若者に歴史を伝える文化活動などが行われる予定だ。ジョンソン首相は「北アイルランド創設は連合王国の形成に道を開いた。過去とこれまでの発展を振り返ろう」と呼び掛けた。
 しかし、帰属をめぐる問題は1世紀を経た今もくすぶる。融和と安定は容易ではない。数千人が犠牲になった紛争は1998年の和平合意で一応終結したが、住民の対立は解消から程遠い。
 4月も最大都市ベルファストなどで激しい暴動が起きた。若者が火炎瓶を投げ合いバスに放火して暴れ、警官ら70人以上が負傷した。暴徒の中心は英統治維持派のプロテスタント系「ユニオニスト」とみられ、北アイルランドの暴動としては「近年で最悪の事態」(英紙)となった。
 背景には、英国の欧州連合(EU)離脱で生じた「国境問題」もある。離脱に当たり、流血を繰り返した地域事情を考慮し英アイルランド間に厳格な国境管理を設けないことで合意した。代わりにアイリッシュ海で隔てられた北アイルランドと英本土間に通商上の境界が引かれた。ユニオニストは「北アイルランドが英国から切り離される」と不安を募らせている。暴動はいったん沈静化したが、いつ再発するか警戒は続く。
 英紙フィナンシャル・タイムズは「海上の境界線、アイルランド統一の議論の高まり、カトリック人口の増加といったことがユニオニストを動揺させている」と指摘。アイルランド政治専門家ブライアン・ローワン氏は同紙に「100周年というユニオニストにとって祝福の年に(英本土との)距離感と差異が生み出されている」と語った。 

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英領北アイルランドの英統治維持派、プロテスタント系「ユニオニスト」によるとみられる道路封鎖=4月19日、ベルファスト(AFP時事)
英領北アイルランドの英統治維持派、プロテスタント系「ユニオニスト」によるとみられる道路封鎖=4月19日、ベルファスト(AFP時事)
北アイルランドの和平合意に反対し、カトリック系過激組織アイルランド共和軍(IRA)の分派組織が起こした爆弾テロ=1998年8月、北アイルランド中部オマー(テレビ映像より)(AFP時事)
北アイルランドの和平合意に反対し、カトリック系過激組織アイルランド共和軍(IRA)の分派組織が起こした爆弾テロ=1998年8月、北アイルランド中部オマー(テレビ映像より)(AFP時事)

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