政治不信、「泡沫」押し上げ=SNSが怒り増幅―ルーマニア 2025年07月14日 09時19分

【ベルリン時事】昨年11月のルーマニア大統領選挙で、主要メディアから勝つ見込みのない「泡沫(ほうまつ)候補」として扱われた極右候補がSNSを通じて支持を急拡大させ、得票率で首位に躍り出る珍事が起きた。不正が指摘されて選挙は無効となったものの、既存政党への「深い失望」(専門家)がいびつな形の民意となり、ほぼ無名の候補を押し上げた。
この候補は、カリン・ジョルジェスク氏(63)。ファシストを称賛した過去を持つ土壌学の専門家で、メディアの下馬評では全く名前が挙がっていなかった。しかし投票日が近づくと、中国系短編動画投稿アプリ「TikTok(ティックトック)」上で、動画の再生回数が急激に増加。第1回投票で、得票率約23%と首位に立った。政府は選挙直後、「ロシアの関与」を指摘。憲法裁判所は決選投票直前に選挙は無効との判断を下した。
TikTokでジョルジェスク氏は不満を持つ国民の代弁者として振る舞い、政府を批判。国内でウクライナ難民が優遇されているとの誤った内容の発言を報道番組から切り取った動画は、500万回以上再生された。
支持急拡大の背景について当局による捜査が進められているが、真相解明は道半ばだ。捜査当局は、ジョルジェスク氏を支持する暗号資産事業者の男が、87万9000ドル(約1億3000万円)相当を、動画の拡散に影響力を持つインフルエンサーらに支払ったことを突き止めた。男はSNSによる情報拡散の仕組みを熟知していたとみられている。ジョルジェスク氏は今月2日にファシズム宣伝の罪などで起訴されたものの、選挙不正に関与したかは分かっていない。
ドイツのシンクタンク、コンラート・アデナウアー財団ルーマニア事務所のカティヤ・クリスティーナ・プラテ所長は、一連の出来事について、「政治的な不満が純粋な怒りにエスカレートした」側面に注目。国民の間に政界で汚職や縁故主義がまん延しているとの強い不満が渦巻いていたという。行き場のない怒りは、好みに合った情報が繰り返し表示されるSNSを通じて増幅され、ジョルジェスク氏を「救世主」に祭り上げた。