報復抑制、幕引き狙いか=イラン「被害は限定的」―緊張沈静化は見通せず・イスラエル 2024年10月26日 17時02分
【イスタンブール時事】イスラエルが26日、大規模ミサイル攻撃への報復として、イラン軍事施設に対する空爆に踏み切った。米国の強い要請で石油や核関連など中枢施設を標的とすることを控え、抑制的な対応にとどめた形だ。イランは「被害は限定的だった」と主張。攻撃を矮小(わいしょう)化して幕引きを図る狙いも透けるが、対立が沈静化に向かうかは予断を許さない。
◇連鎖回避の思惑
イスラエルは今月1日に約200発の弾道ミサイル攻撃を受けた直後から、イランへの報復を明言。「致命的かつ正確で、何がどのように起きたか分からない驚くべき内容となる」(ガラント国防相)と警告していた。ネタニヤフ首相らは攻撃の規模や対象を巡り、緊張激化を懸念する米国とも協議を重ねた。
4月にイランが初めてイスラエルを直接攻撃した際は、イスラエルが限定的な反撃にとどめ、イラン側もほぼ沈黙を保ったことで、緊張はいったん収束した。イスラエル軍によれば、今回はミサイル製造施設などが標的で、前回より攻撃の烈度が増したとは言い難い。イスラエルにも報復の連鎖を回避したい思惑があった可能性がある。
◇釣り合う対応
焦点となるイランの出方は見通せない。米紙ニューヨーク・タイムズは、被害が大きければ約1000発の弾道ミサイル発射のほか、ペルシャ湾経由のエネルギー供給妨害などが検討されていると報道。イランが「限定的」とする今回の被害をどう評価するかがカギとなる。
イラン情勢に詳しい米シンクタンク「スティムソン・センター」のバーバラ・スラビン研究員は「イランは被害と釣り合いの取れた対応をする。損害が大きいと判断すればさらに攻撃を加え、最小限と見なせば自制する可能性もある」と指摘する。
イラン最高指導者ハメネイ師は、かねて「必要なら正しく合理的な措置を再び講じる」と再報復に含みを残し、精鋭軍事組織「革命防衛隊」のサラミ司令官も「好きなだけ攻撃すればいい。それを上回る反撃を加える」とけん制してきた。ただ、強硬な発言と裏腹に、体制指導部の存続を揺るがしかねないイスラエルとの全面衝突は避けたいのがイランの本音だ。
◇崩れる防波堤
イランはイスラエルへの防波堤として、レバノンのイスラム教シーア派組織ヒズボラやパレスチナのイスラム組織ハマスを支援してきたが、いずれもイスラエルの攻勢で壊滅的打撃を被った。イランが抑止力を急激に低下させる中、イスラエルには米軍の迎撃システム「高高度防衛ミサイル(THAAD)」も配備。攻撃と防御両面で備えを強めている。
イスラエル軍は攻撃後の声明で「新たなエスカレーションを始める過ちを犯せば、対応する義務がある」と強調。今回の危機が収まっても、イラン抑止へ核施設攻撃などの機会を探るとみられ、両国が本格衝突するリスクはくすぶり続けている。